今回の値上げの主な目的は、モバイル事業の黒字化に向けた設備投資だと考えられます。そのためには、KDDIに支払うローミングコストの削減が大きな鍵となります。
ローミングすなわち、データローミングとは、通信キャリアのサービスエリア外で通信しようとしたとき、提携する現地キャリアの通信網を代わりに利用する機能のこと。基地局数が少なかった楽天は、携帯電話事業者サービスの利用可能人口を示す指標である人口カバー率が低く、多額のローミングコストがかかるというわけです。
ローミングコストの削減には、人口カバー率を上げること、つまり基地局数を増やしていくことがポイントです。同社は目標としていた4Gネットワークの人口カバー率96%を2月4日に達成。約4年での前倒しを実現しています。
また、自社エリアの拡大に伴ってKDDIのローミング回線の利用は減少しているようで、21年10月には、すでに39都道府県の一部地域でローミングを終了していました。21年末における楽天モバイル回線エリアでのデータ利用比率は9割近くに上ることもあるようです。
ちなみにローミングコスト削減の規模感について、同社の三木谷浩史会長兼社長は「100億円単位ではない(より少ない)形で減っていくと思っていい」と述べていました。
楽天モバイルが新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表した翌日の5月13〜15日にかけて、低価格帯のスマホプランを提供するpovo(ポヴォ)への申し込みが集中。本人確認に時間がかかってしまう事態が発生しました。これは、楽天モバイルからの乗り換えが殺到したことが原因と考えられます。
povoとは、auが提供するオンライン専用の低料金プランのこと。povo2.0は、基本料金0円で毎月好きなデータ容量と通話オプションを“トッピング”して臨機応変に使いこなせる点が特徴です。
楽天モバイルからpovo2.0への流出現象を、プライシングの観点から考察してみます。そもそも通信キャリアは大きく3つのポジションに分かれています。au、ソフトバンク、docomoなどの高価格帯。Y!mobile、UQmobileなどの中価格帯。LINEMO、povoなどの低価格帯です。
価格が高くなったとしても、通信速度やデータ容量、付帯サービスの充実、家族割などを求める層は高価格帯。選べる端末(iPhone、Galaxyなど)や通信速度やデータ容量、サポート内容に制限があってもいいから、とにかく価格を下げたい層は低価格帯。その中間の中価格帯と、カニバリゼーションを避けつつ、大手通信キャリアはあらゆる層を取り込んでいることが分かります。
これまで、楽天モバイルは低価格帯に位置していましたが、今回の価格改定で低価格帯と中価格帯の中間付近に位置することになりました。しかし、今後も基地局数を増やしていく方針や、楽天グループ内サービスとの連携強化を訴求している観点から考えると、高価格帯の通信キャリアと同等の提供価値(それでいて価格が安い)を目指しているはずです。
そのためには現在の顧客層に加え、高価格帯、中価格帯層のユーザー獲得や乗り換えも狙っていると考えられます。つまり、低価格層の中でもより低い価格だけを求める層の解約は、ある程度想定の範囲内だったのではないでしょうか。
ターゲットとする顧客によって、サービスに求めている内容や価値が変われば、支払い意欲も変わります。すると当然、どうビジネスを作っていくかという戦略も変化します。今回、楽天モバイルからpovo2.0への乗り換えするユーザーが目立ちましたが、必ずしもネガティブに解釈する必要はないと考えます。
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