欧米で「Katsuブーム」が起きているのに、日本のカツ専門チェーンが進出しないワケスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2022年07月12日 08時57分 公開
[窪田順生ITmedia]

欧米への進出に二の足

 このような調査を踏まえれば近年、欧米で起きている「Katsuブーム」の実像がなんとなく見えてこないだろうか。

 日本で生活して、日本にやって来る外国人たちの「ワオ! 日本のカツ丼は世界一だ」「こんな柔らかいとんかつは生まれて初めて食べた!」なんて称賛の声ばかりを聞いて、「欧米でトンカツやカツサンドが人気」という話を聞くと、われわれが日本で食べているトンカツやカツサンドが、そのまま欧米人にも受け入れられている、と感じるだろう。つまり、日本の味付け、日本人コックの高度な調理技術、繊細な盛り付けなど「日本文化」が支持されているというストーリーが頭に浮かんでいるのだ。

とんかつ まい泉の「ヒレかつサンド」

 しかし、現実はちょっと違う。

 実は米国の日本食レストランの多くが、「アジア系米国人」によるものだという現実があるように、欧米人に支持されている「Katsu」というのは、現地の食文化の中で独自の進化を遂げたものであって、われわれ日本人の考えているトンカツやカツサンドとかなりテイストが違うのだ。

 これは日本のラーメンを思い浮かべてもらうといい。ご存じのように「拉麺」はもともと中華料理だが今、日本国内にあるラーメンは独自の進化を遂げ、中国人も認める「日式ラーメン」という新たなカテゴリーを確立している。欧米の「Katsu」もこれと同じだ。

 実際、米国内で「orijinal katsu sando」をうたっているような店のWebサイトを見てみると、“日本イメージ”をまったく訴求しておらず、一般のハンバーガーショップのような感じの店がほとんどだ。

 メニューに関しても、カツサンドやメンチカツサンドという定番もあるが、大きなマッシュルームがガッツリと入れられている「マッシュルームカツサンド」や「エッグ&チーズ カツサンド」など、日本ではあまり馴染みのないメニューが多くある。

 つまり、欧米で支持を受けている「Katsu」というのは、現地にいる日本人も含めたアジア系移民が、現地の人々の味覚や食文化に合わせた形で独自に進化させた「欧米式カツ」なのである。

 これが日本のかつ専門チェーンが、欧米への進出に二の足を踏んでいる最大の理由だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.