欧米で「Katsuブーム」が起きているのに、日本のカツ専門チェーンが進出しないワケスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2022年07月12日 08時57分 公開
[窪田順生ITmedia]

いつもと違うな

 これらのチェーンは、日本の中で日本人相手に培ってきた味、ノウハウなので日本人と食文化や味覚が近い人たちが多い国に進出しやすい。韓国、台湾、中国、そしてタイだ。

 しかし、欧米はそうはいかない。既に多くのアジア系移民も多く生活して、中国人やベトナム人が経営しているような日本食レストランなども多くあり、既にその中には現地の人に受け入れられている店もあるからだ。

 日本人からすれば、「衣がベタベタでこんなのぜんぜんトンカツじゃない!」とゲンナリするようなベトナム人の調理人がつくるKatsuを、日本のトンカツだと思って食べている欧米人も多いのだ。

日本のトンカツ店は、なぜ欧米に進出しないのか

 そういう人たちからすれば、日本からかつ専門店が進出してきて、「これが本場のトンカツだ!」と大見栄を切ったところで、「これが本物か! 今までだまされていた!」なんて反応になるのはわずかで、ほとんどの人は「ふーん、いつも食べていたのと違うな」くらいにしかならないのだ。

 「そんなバカなことがあるか」と憤慨する人も多いだろうが、自分たちの国で置き換えてみれば分かりやすい。例えば、日本人はイタリア料理を、すっかり日本的にアレンジしており、「サイゼリヤ」「カプリチョーザ」「ピザーラ」なんていうイタリア人以外の経営するイタリア料理が、市民権を得て日本人に広く受け入れられている。

 では、そんな国にイタリアから「これが本場のイタリア料理だ!」と現地の外食チェーンが乗り込んできたとして、日本人は急にそっちを支持するだろうか。「これが本当のイタリア料理か! これまでだまされていた」なんて反応になって、「サイゼリヤ」に行かなくなったり、「ピザーラ」を偽物扱いするだろうか。

 するわけがない。食文化というのは結局、その国の人々の味覚、金銭感覚、さらには国民性みたいなものに深く影響をしているので、「本場や本家本元だからということで評価される」というものでもないのだ。

 つまり、マスコミは「今、世界で日本食が大ブーム」と日本人をうっとりさせるようなことを盛んに捲(はや)し立てるが、実はそこで言われている「日本食」は、われわれの考えているものとはちょっと趣が違っていて、それぞれの国でカスタマイズされた「日本風料理」なのだ。

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