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ハシモトホーム自殺事件から考える、パワハラがなくならない4つの理由侮辱賞状は「余興のつもり」(1/5 ページ)

» 2022年07月15日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 青森県八戸市の住宅会社であるハシモトホームは、長年にわたって新築着工棟数で青森県内1位の地位にあり、北東北エリアでもトップクラスの実績を誇っていた。

 2018年、同社に勤めていた40代の男性が自殺した。その原因は、上司からのパワーハラスメントや過重労働であるとして、男性の遺族が会社側に約8000万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたことが先日大きく報道された。

 男性は11年に注文住宅の営業職として同社に中途入社。18年1月頃、上司から男性の携帯宛に「お前はバカか?」といった内容のメッセージが複数回送られたほか、会社関係者が集まる新年会で「症状」と題した文書を渡された。文書には「貴方は、今まで大した成績を残さず、あーあって感じ」などと、男性を侮辱するような文言が書かれていた。男性は翌月に重度のうつ病を発症し、その後自ら命を絶ったという痛ましい事件だ。

 20年、青森労働基準監督署が自殺の原因は「上司のパワハラで重度のうつ病を発症したため」として労災認定した。その後遺族は謝罪などを求めて会社側と交渉していたが、会社は「法的責任はない」として交渉は決裂。そして今般の提訴に至った。

 会社側も提訴と報道によってようやく責任を認め「本件を重く受けとめ、最大限誠意ある対応を取る」とコメント。また外部専門家に本件の調査を委嘱し、原因調査と再発防止策の提言を実施することも発表している。

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

「余興のつもりで」 無自覚に起こるパワハラ

 問題となっている「症状」について同社の橋本社長は、「年始行事の余興の一環として、営業成績上位の社員に渡していた。程度の差こそあれ、類似の内容だった」と説明。要するに、単純に褒めるだけでは物足りないから、場を盛り上げるために面白おかしくイジってみた、といった程度の感覚だったのだろう。

 会社が「余興のつもりで」侮辱賞状を渡し始めたのが約10年前。男性社員の自殺が4年前。労災認定が2年前。その間、会社はずっと責任を認めてこなかった。慌てて謝罪したのは遺族に訴えられてから。ここから分かるのは、パワハラは加害者にとっては実に無自覚に行われるものであり、被害実態が見えづらいということ。そして結果的に誰からも「おかしい」と声が上がらず、倫理観が欠如した環境に皆が慣れてしまう、というおぞましい事実だ。

 もしかしたら、本稿の読者諸氏の中にも「それくらいのイジりはウチの会社でも普通にやっている」「個人のストレス耐性の問題では?」などと感じている人がいるかもしれない。だがその認識こそ、皆が無意識のうちに不幸なパワハラ被害者を産んでしまう元凶になりかねない。

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