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ハシモトホーム自殺事件から考える、パワハラがなくならない4つの理由侮辱賞状は「余興のつもり」(4/5 ページ)

» 2022年07月15日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

(2)加害者に、自身の言動や行為がパワハラである旨の自覚がない

 組織ぐるみでパワハラをなくそう、予防しようとどれだけ力を入れたところで、そもそも加害者側に「自分はパワハラをしている」という認識も自覚もないのであれば、パワハラを止めようがない。

 実際のところ、加害者は「相手に嫌がらせしたい」「憎らしい」といった明確な目的意識や悪意をもってやっているケースはさほど多くなく、逆に「無意識のうちに」「悪意なく」ハラスメントが行われているケースの方が多いのだ。

 労務行政研究所と筑波大学が実施した職場のハラスメント調査によると、「一般的に職場でのハラスメントと捉えられる行動や言動」を17項目抽出し、約500人にそれらを「(自分自身が)過去6カ月間でおこなった」と回答したのは、全項目平均で22.2%だった。中でも50代前半の回答者における加害認識はわずか15%程度だった。一方で、別の約500人に「職場のメンバーが自身を含む同じ職場内の人々に対して、それらの言動・行為を行ったか」と全項目平均で31.9%が被害を認識していた。

 この結果は「自分では気付かないうちにハラスメント加害者になっている」人がいる可能性を示している。

図表右下の「(2)周囲は高く、当人は低い」結果に(労働行政研究所のプレスリリースより)

 特に部下を持つ管理職層が加害者の場合、「これまで受けてきた指導自体がパワハラ同然であったため、自身の普段の言動・行動がハラスメントであることに気付かない」「相手の成長のため、良かれと思ってやっている」というケースが考えられるし、ハラスメント気質のままで出世してきているということは、「そのやり方でこれまで成果を上げてきた人物なので、加害者の上司や周囲も指摘できない」といったケースもあり得るだろう。

 この(1)無知と(2)無自覚が合わさると、パワハラの「軽視」につながる。特にパワハラ的な指導に慣れ、「自分は打たれ強い」との自覚を持った人であればあるほど、打たれ弱い部下の気持ちを理解できず、「社会人ならこれくらいのプレッシャーや叱責に耐えるのは当然」といった信念を持ちがちだ。

 どれだけ被害者が傷つき、不快な気持ちを抱いているとしても、「冗談のつもりだった」「そんなに嫌がられていたとは知らなかった」などと言い訳するのもこの種の人物の特徴である。

 「パワハラをやめよう」といった標語で、個々人の思いやりや道徳心に頼ってなんとかなる話ではないのだ。「パワハラ=自覚できない無意識の犯罪」といった位置付けで、組織ぐるみで対策をとっていく必要があるだろう。

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