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ハシモトホーム自殺事件から考える、パワハラがなくならない4つの理由侮辱賞状は「余興のつもり」(5/5 ページ)

» 2022年07月15日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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(3)被害者が声を上げづらい

 パワハラは「指導」という名目でおこなわれることが多い。必然的に、被害に遭うのは成果が上がっていなかったり、仕事でミスが多かったりするような、組織内では相対的に立場が弱く、発言力も小さい人物だ。

 そんな被害者が「それはパワハラです」などと声を上げようものなら、「仕事もできないくせに文句だけは一人前だな!」「権利を主張するならまず成果を出してからだ!」などと、さらにひどいパワハラに遭ってしまうリスクがある。

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

 さらには「反抗的な問題社員」扱いされ、その後の評価が下がったり、不本意な人事異動に遭ってしまったりして、組織に居づらくなってしまうかもしれない。当然ながら、そのような展開が想像できる以上、ハラスメント被害を訴え出ることをためらってしまうことになる。

 また実際に起きた話として、パワハラ被害者が内部相談窓口に被害申告したところ、「くれぐれも内密に……」と告発したはずのパワハラ内容が全て加害者である上司に筒抜けになってしまい、さらなる被害に遭ってしまったというケースもある。社内に労働組合もない場合、そもそもどこに相談したらよいか分からない、という方も多いだろう。

(4)パワハラに対する直接的な罰則が緩く、抑止力になっていない

 パワハラ防止法において、パワハラへの適切な措置を講じていない事業主は是正指導の対象となり、是正勧告を受けても改善しない場合は社名公表の対象となる。また行政(厚生労働大臣)は、事業主に対してパワハラ防止措置とその実施状況について報告を求めることができ、それに対して「報告をしない」もしくは「虚偽報告をした」場合は「20万円以下の過料」が科されることになっている。

 しかし労働基準法違反のように、懲役や罰金といった明確な罰則規定は設けられていないため、「是正勧告程度で済むなら……」と軽く捉えられ、パワハラへの抑止力となっていない可能性がある。

 この法規および罰則の問題と、被害者が訴え出づらいことが相まって、なかなかパワハラの実態が表に出てこないことにもつながっているようだ。

 パワハラがなくならない理由を大きく分けると、以上の4つにまとめられる。では、こうした原因を取り除き、パワハラを未然に防ぐにはどうしたらいいのか。もしくはすでに組織内でパワハラが起きてしまっている場合、どのように対処すべきなのか。次回の記事で解説をする。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による「業績&従業員満足向上支援」、悪意ある取引先にまつわる「ビジネストラブル解決支援」、問題社員・ブラックユニオンに起因する「労務トラブル解決支援」を手がける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。

著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。最新刊「クラウゼヴィッツの『戦争論』に学ぶビジネスの戦略」(青春出版社)


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