悪質なパワハラ被害が発覚すると、マスメディアで大きく報道され、読者や視聴者からも強い非難が集中する。このような報道や反応を見る限り、職場内でのハラスメントに対する社会的な認識は年々高まり、「パワハラはいけないことだ」との認識が十分浸透しているように感じられるかもしれない。
実際に、パワハラを防ぐための法律、通称「パワハラ防止法」(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)も19年6月1日から施行された。当初の適用対象は大企業のみで中小企業は「努力義務」だったが、本年(22年)4月1日からは中小企業も適用対象となった。
パワハラ防止法の趣旨は「事業主は、職場でのパワハラ発生を防止し、解決するための策を講じなければならない」というもの。
元より職場でのパワハラは「いけないこと」ではあったものの、その防止についてはあくまで各職場における努力義務でしかなく、法的な定義も定まっていなかった。それが今般の法律施行により、「職場におけるパワハラ対策が事業主の義務」となったのだ。
事業主はパワハラ防止策を講じるのみならず、パワハラ相談者や加害者のプライバシーを保護すること、そしてパワハラ相談者を解雇するなどの不利益な扱いをしないこと、といった措置が求められることになっている。
パワハラには厳正に対処する方針を明確化し、労働者に周知・啓発しなければならない
パワハラの相談窓口を整備するほか、担当者が適切に対応できるよう、マニュアルや仕組みを整えなければならない
事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮、そして加害者への厳正な措置をせねばならない
パワハラ防止法に従っていれば理論上、現時点で全ての企業においてパワハラ対策がとられているはずだ。
しかし、残念ながら実態は異なる。日々報道されるパワハラにまつわるニュースがその証左であるし、各都道府県の総合労働相談コーナーに寄せられる労働相談件数、助言・指導の申し出件数、あっせん申請件数の全項目で、「いじめ・嫌がらせ」が10年増加傾向を続けていることからも明らかである。
もちろん、この相談件数の中には、「これまで、暴言などは当たり前の指導の範囲だと思っていたが、パワハラ事件として報道されたケースと似ていたため、実は自分もパワハラに遭っていたことに気付いた」といった、「パワハラにまつわる問題意識が浸透した結果として被害が顕在化したケース」も含まれていよう。それは一つの成果かもしれないが、だからといって全体の件数が依然として増加傾向であることは否めない。
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