これまでのオフィスが「固定された自席で仕事をする場」で、オフィス街がその集合体だったとすると、今行われている実験はそれを流動化し、これまでオフィス街とは無縁だった人たちまでを巻き込んで新しいアウトプットを生み出そうとするものである。コロナ禍で在宅勤務、リモートワークが進展したことから、これまでのようなオフィスが必要かという議論が出たが、それに対する答えのひとつと言ってもよい。
だが、先導プロジェクトが始まったのはコロナが広がり始めた頃。つまり、コロナ前からこれからのオフィス、オフィス街の未来像は描かれていたということになる。山元氏は「こういう形になるだろうと思った方向に、思っていたよりもはるかに早いスピードで進んでいます。先にスタートしておいてよかったと思っています」と振り返る。
今ある仕事を続けていくだけのオフィス、オフィス街ではなく、今ある仕事以上のビジネスを生み出せるオフィス、オフィス街へ――。考えてみると三菱地所は本来、不動産デベロッパーであり、扱うものは建物、ハードだったはず。だが、これからの時代には今までと同じ形の箱=建物ではなく、異なるものが求められると同時に、箱の中身やその入れ方までが問われるようになっている。
その観点からすると、大丸有のNEXTステージは同社にとっての越境でもあるのかもしれない。そして、それが求められているのは大丸有だけでも同社だけでもないような気がする。
中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。
40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。
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