クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3)池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2022年07月20日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 まずはお詫びを。この集中連載の1本目で「実はリヤゲートを持つ5ドアハッチバックボディなのだが」と書きましたが、これは間違いでした。スラントしたテールを持ちますが、ハッチバックではなく、MIRAI同様にトランクリッドが存在しております。筆者の勘違いをお詫びして訂正いたします。

 さて、文体を改めて本題に戻る。4タイプのボディと多彩なパワートレインを同時発表したことで、話題沸騰中の新型クラウン。そのクラウンについての短期集中連載の第3回である。

ククラウンを管轄するミッドサイズビークルカンパニーの中嶋裕樹プレジデント(トヨタ提供 撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)

それほどまでにクラウンを残したいのか

 前回の記事では過去のトヨタの戦略をベースに、「後出しじゃんけん戦略」と「絨毯爆撃戦略」の視点から、クラウンの狙いをひも解いてきた。

 しかし、それほどの大仕掛けをしてまで、果たしてクラウンを残す意味があるのかと思う人もいるだろう。今回のクロスオーバーを否定的に捉える人の中には、「伝統的なセダン、クラウンらしいクラウンが売れないのなら、潔く打ち切ればいい。クラウンとは思えないクルマに無理矢理クラウンを名乗らせて延命する意味はない」という声も少なからずあった。

 言いたいことは分からないではないが、トヨタの立場から見れば、「そんなお気楽な……」という話でしかない。豊田章男社長は、自工会会長としての立場で、ここ数年「自動車産業の550万人」の暮らしを豊かにしていくためにどうするかをずっと問い続けている。

 自動車とその部品の製造出荷額は約70兆円。全製造業の2割を占める国内最大の産業である。ちなみに自動車の貿易黒字は約15兆円。巷(ちまた)では、時に製造業はオールドエコノミーという言い方をされるが、経済波及効果は2.5倍と高く、裾野が広いことを忘れてはならない。

 新しいか古いかという、さして意味の無い印象論の前に、日本国民の多くが自動車産業で食っているという事実は重い。日本経済のエースで四番であることは疑う余地もない。参考までにいえば、2022年度の日本の税収が約67兆、政府予算が約108兆円。それに対して自動車産業とユーザーの納税額は約15兆円だ。

 ついでにいえばトヨタの直近の決算における、当期営業収益は31兆3795億円、営業利益は2兆9956億円となっている。数字を見比べれば一目瞭然だが、日本経済への影響は甚大であり、それだけのものを背負った決断を常に求められている。クラウンをどうするかはそんなに簡単な話ではない。

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