クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2022年07月20日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

クラウン存続はセダンという車種の存続である

 ちょっと昔話に入る。といっても2017年、現行のカムリがデビューした試乗会でのことだ。カムリは長らく北米マーケットの稼ぎ頭だったが、その座をRAV4に奪われた。筆者は、カムリが売れなくたって結局同じトヨタのクルマが売れるだけなので、どっちでもいいじゃないかと言う気分で、それをポロッと口にした。その時の話し相手は、翌年トヨタの副社長に就任した、現アイシンの吉田守孝社長だったが、その言葉を聞いて気色ばんだ。

 「池田さんねぇ、生産設備を使ってクルマを作るってことは、そんな簡単じゃないんですよ。設備稼働率を常に高く保つことは絶対なんです」

 言われてみれば当然だ。会社全体での稼働率は、いってみれば減点法。どれか1車種でもラインの設備稼働率が下がれば、全体の足を引っ張る。「こっちが売れなくなった分、あっちが売れればOK」という話ではない。もっと遙(はる)かに緻密な話だ。

 クラウンを断絶するという決断は、詰まるところ、トヨタがセダンから完全撤退するかどうかという話とニアリーイコールである。旧来型のセダンがマーケットで求められないのだとすれば、それはクラウンだけの話ではなく、カムリもカローラもと全部に波及するだろう。そしてその過程で、稼働率が下がり、利益を圧迫する。

 逆にいえば、クラウンが先兵となって新しいセダンのあり方を見つけ出せば、カムリもカローラもそれに続いた変革が可能になる。諦める前に、本当に全てを尽くしてセダンの可能性を総当たりで試したのかどうかは問われなくてはならない。

 不確実性の高い未来において、セダンの選択肢を棄てたことが、後に重大な問題を生む可能性だって否定できない。ましてや前述のように、自動車産業550万人の、ひいては日本経済に影響を及ぼす責任ある立場からみれば、そんなに簡単に「やめた、やめた」というわけにはいかないのである。

 そして、クラウンを続ける以上、クラウンの3万点の部品を供給する膨大なサプライヤーの命運も一蓮托生で預かることになる。そういうヒリヒリした緊張の中で、4台のクラウンは生み出された。

新型クラウンの4車種。左からクロスオーバー、スポーツ、セダン、エステート。今年10月のクロスオーバーを皮切りに、この先1年半で残る3台がリリースされる

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