さて、こうしたeKYCにおいて最大の課題となっているのが、やはり虚偽の申請が行われるという問題だ。伝統的なKYCの時代から、偽の身分証を用意するなどしてチェックをすり抜けようとする行為が行われてきたが、eKYCに対してもさまざまな形で偽証が行われるのではないかと懸念されている。
例えば「証明書類を撮影してもらう」というパターンのeKYCに対しては、当然ながら、それらしく見える静止画をCGなどで作成するという詐欺行為が考えられる。そこで企業側は、静止画ではなく動画を撮ってもらう、またその際には「瞬きをする」「顔を動かす」といった、偽造しづらい動きをしてもらうなどの対策を講じている。
しかしいま、ディープラーニングなど高度なAI技術を使って動画を偽造する、いわゆる「ディープフェイク」でeKYCを突破するという例が出てきている。リアルタイムで映像内の顔を入れ替えることも可能なため、eKYCの際にランダムに顔の動きを指定されるといった状況にも対応できる。
実際に2021年7月には、日立製作所の研究開発グループが論文を発表し、ディープフェイクを使って他人になりすまして、本人確認システムを突破できたことを公表した。こうしたディープフェイクを検知する研究も進んでいるが、犯罪行為とそれを阻止する取り組みは、いたちごっこになることが避けられない。
そしてこうした犯罪を防ぎつつ、一方でeKYCが登場した背景でもある、利用者の利便性を高めるという目標を追求しなければならない。eKYCにとって本当の課題とは、この2つの目標を同時に達成する手法を、常に考え続けることといえるだろう。
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