前回の記事では「eKYCとは何か」「なぜいまeKYCの取り組みが進んでいるか」を解説した。今回は具体例を挙げながら、実際にeKYCがどのように実現・活用されているかを見てみよう。
eKYCはKYCを電子化したもの、と言ってしまえばそれまでなのだが、それを実現するには高度な技術力が求められる。
これまでの「サービス利用を申し込んできた本人を目の前にして、その人物が提出した書類が本物かどうか確認し、さらにその書類が対象としている人物が目の前にいる人物と一致しているかどうかを確認する」という過程は、何気ないもののように見えて、人間の持つ高い認知力に依存していた。それを機械で置き換えるためには、AI(人工知能)など先進的なテクノロジーを使わなければならない。
しかしeKYCを必要とする全ての企業が、そうしたテクノロジーを持ち合わせているわけではない。多くの企業は、外部のベンダーに頼っている。特に一部のベンダーは、eKYCのプラットフォームを構築することに多額の投資を行い、「eKYCをサービスとして提供する」というビジネスを行っている。
そうした企業の一つが、米シリコンバレーに拠点を置くスタートアップ企業のJumioだ。彼らは「AI-Powered Trusted Identity as a Service(サービスとしての『AIが信頼性を保証するアイデンティティー』)」を標ぼうし、文字通りAIを活用したeKYCプラットフォームを提供している。
既に海外の大手ブランドが同社のeKYCサービスを利用し、自社の顧客獲得やコンプライアンスといった業務プロセスに組み込んでいる。そうすることで、ブランド側は自社サービスの改善に注力できる。KYCという「絶対に間違いがあってはならない点で重要だが、サービスの競争力を保つという点では不要な」プロセスをJumioに任せてしまうことが可能になる。そしてJumio側はeKYCに専念することで、より安全で、利便性の高いeKYCプロセスの実現が可能になるというわけだ。
他にも同様のサービスを提供する企業として、Shufti ProやOnfido、Truliooなどが存在しており、eKYCの高度化を競い合っている。
先ほどKYCを「サービスの競争力を保つという点では不要」なプロセスと表現した。しかしこれはあくまで、従来のビジネスにおけるKYCの役割の中での話だ。例えばKYCの本流である金融機関の場合、「信頼できる顧客を相手にビジネスをしていること」は実現されていて当然の話であり、eKYCを導入したこと自体から企業の評判が高まることはない(それによって利便性が改善されたことが評価されるかもしれないが)。
しかしこれまでKYCが徹底されていなかった業界ではどうだろうか。
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