76年に朝日新聞社に入社し、経済部の記者としてキャリアを歩んできた“働く女性”のパイオニア・竹信三恵子さんは、いかにパートが企業にとって便利な存在だったかを、著書『ルポ賃金差別』(ちくま新書)で紹介しています。
ある中小企業の社長さんはこのように言ったといいます。
「女の時代って、本当にいいですね。女性が外で活躍してくれるようになり、大学院を修了した人や大卒のすばらしく優秀な女性が、パートや派遣として正社員の半分の賃金でも働いてくれるんですから」
社長さんがうれしそうにそう語った80年代は、男女雇用機会均等法ができ「均等法で会社に男女差別はなくなった」というイメージが社会に膨らんでいた時代です。しかしながら、「パートの賃金は安くて当たり前」というあからさまな差別は無分別に続いていたのです。
日本がGDPで米国、中国に次ぐ世界3位の経済大国なのにもかかわらず、シングルマザー世帯の貧困率が先進国で突出していることも、「パートの賃金は安くて当たり前」という旧態依然とした価値観が根っこにあるのは明らかです。
以前、参加させていただいた労働問題を意見する場で、パートの賃金の低さを指摘され、「賃金の違いは差別ではない。能力の違いなんだよ」と答えた男性がいました。こういう思想を疑いもなくいまだに持ち続けている人たちが一定数存在する。
女性の自立は、男性の性役割解放にもつながる問題であり、生きづらさを解消する手だてになることが理解できないのです。
岸田政権は、「女性版骨太の方針」を掲げ、「女性の経済的自立」「女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現」「男性の家庭・地域社会における活躍」「女性の登用目標の達成(第5次男女共同参画基本計画の着実な実行)」を示しています。
これを実効性あるものにするためには、日本社会に深く根付く「女性は都合のいい労働力」という間違った価値観を一掃することが必要です。──いい加減、女性の自立を、認めてもらえませんか?
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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