広告会社の仕事がどんどん奪われている!? 電通とサイバーエージェントの収益構造から考えるビジネスモデルの差は?(1/4 ページ)

» 2022年07月29日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

著者プロフィール

佐久間俊一(さくま しゅんいち)

レノン株式会社 代表取締役 CEO

著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。

グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティングにて小売企業を担当するセクターのディレクターとして大手小売企業の制度改革、マーケティングシステム構築などDX領域のコンサルティングを多数経験。世界三大戦略コンサルファームとも言われている、ベイン・アンド・カンパニーにおいて2020年より小売業・消費財メーカー担当メンバーとして大手小売企業の戦略構築支援及びコロナ後の市場総括を手掛ける。2021年より上場会社インサイト(広告業)のCMO(Chief Marketing Officer)執行役員に就任。

2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。

2019年より1年半に渡って日経流通新聞にコーナーを持ち連載を担当するなど小売業には約20年間携わってきたことで高い専門性を有する。

日経MJフォーラム、KPMGフォーラムなど講演実績は累計100回以上。


 広告業界トップを走り続けてきた電通グループの2020年12月期における決算は、営業損益が1406億円の赤字でした。また、その後の自社ビル売却や雇用形態の変化(業務委託へシフト)についても話題となりました。業界のトップがこのような状態だったとき、同業他社の業績はどうだったのでしょうか。上場している代表的な20社の営業利益と時価総額の推移を確認してみました。

電通の本社ビル(提供:ゲッティイメージズ)

 すると、総合広告会社、紙媒体やイベントを主体とした広告会社9社のうち7社(77%)がコロナ禍で赤字に陥っていました。対してWeb・SNSを主体とした会社はどうかというと、11社中赤字になったのは1社(9%)のみ。デジタルの時代だから当たり前の結果といえばそうですが、果たしてこれはコロナだけの影響でしょうか。例えば、電通は19年の決算で既に33億円の赤字を計上しています。

 時価総額をマーケットからの事業に対する期待指標と捉え、各社の時価総額推移を確認しました。すると、顕著な傾向が出ていました。総合広告・紙媒体・イベント系企業の16〜21年における時価総額平均成長率は108.3%であるのに対し、デジタル系企業は274.0%となっていました。

ビジネスモデルで分類した広告会社の収益(出所:筆者作成) ※時価総額はIR BANK他、各種公開資料より抽出したため、年次ごとの月のタイミングは一部異なる

 電通の16〜21年における時価総額年平均成長率(CAGR)はマイナス5.4%であるのに対して、サイバーエージェントは19.5%です。営業利益率においても電通が4.6%であるのに対して、サイバーエージェントは15.7%と収益構造も明らかに異なることが分かります。

 この差は、自社独自の事業があるのか、メディアを中心とした他のサービスを販売することが軸になっているかに起因する部分が多いと予想されます。サイバーエージェントはゲーム事業や自社メディア開発に積極的に投資をしてきた企業です。収益モデルも課金型とWeb広告出稿のマージン型でハイブリッドな状態を保持しています。人材の登用の仕方も、若い人材を早期から経営層や子会社の社長に抜擢(ばってき)するなど、起業家精神を育成することに積極的です。5年後、10年後を見据えた戦略的な人材が多く育っていることと思われます。

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