広告会社の仕事がどんどん奪われている!? 電通とサイバーエージェントの収益構造から考えるビジネスモデルの差は?(3/4 ページ)

» 2022年07月29日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

クライアントも広告領域に進出

 また、広告会社が注視すべき競合には、コンサル会社やシステム会社以外では、クライアント企業が挙げられます。

 店舗のサイネージ広告を収益の柱にするべく21年9月に新会社まで立ち上げたファミリーマートのようにリテールメディアを構築する小売企業が増えてきました。小売企業のみならずクライアントがメディアを開発し、それを販売することで広告収入を得るという新たな収益源をつくる動きが加速しています。

 これはグローバルの動きも後押ししています。例えば、アマゾンの広告収入が3兆円を超え、直近ではユーチューブの広告費を抜きました。ウォルマートの広告収益も5000億円を超えているといわれています。日本では楽天が21年に1579億円の広告売り上げを達成しています。このように従来広告主であった企業がメディア企業へと変貌を遂げ、広告マーケットから収益を奪っていく構図は今後さらに拡大していくことでしょう。

 このような周辺マーケットの動きもある中で、今後広告会社はどのような戦略を取るべきでしょうか。市場を取られる側になるか、取る側に回るか、それとも今のポジション・業績をとにかく守ることだけに専念するか、選択の岐路に立たされています。実はこれは今に始まったことではなく、10年以上前から問われていることでした。藤原治さんの『広告会社は変われるか』(ダイヤモンド刊)という大変素晴らしい著書があります。

 当時からマスメディア依存体質からの脱却を提言し、広告会社は事業モデルから抜本的に変えていく必要があると述べられています。この本が発刊されたのは07年です。それから15年、果たして変われた広告会社がどれだけあるか。

 次に示す、広告会社の戦略の要点は未来のことではなくまさに今求められており、時すでに遅しとさえいえる内容かもしれません。1サービスをあらたにつくるというレベルではなく、次なる収益の柱となる“事業”を本気で立ち上げる必要があります。今から5年後に気づいて着手してもすぐに事業は立ち上がらず、手遅れになりかねません。

 そして収益性が上がらず、給与水準が上げられなければ優秀な人材も採用できません。コンサル会社などへ既存社員が流出してしまうリスクもあります。

広告業界に今後求められる方向性(出所:筆者作成)

 このように、本気でアクションを起こせる経営者は多くはありません。次に示す4象限の中で自社がどこに位置しているか、その認識によっても実行力は変動します。

 右上にある「先駆的チャレンジ」のスタンスの経営者はおそらく窮地に陥ってはいないはずです。なぜなら挑戦や戦略的思考が常なので、早期に対策を講じていくからです。

 最も危ないのはもちろん左下の「守り先行、もしくは撤退」です。自社のビジネスが陳腐化していてかつ市場内におけるポジションが弱い。この象限になるともはやチャレンジをするという感覚ではなく、何をそぎ落とすかという守りや撤退の思考が強くなってしまいます。

 オフィスを縮小する、人を削減する、給与を下げるなど負のスパイラル状態に陥ってしまいます。こうなる前に右下(事業改革の断行)や左上(事業再生)のゾーンにいるときに、次なる準備を入念かつ迅速に始める必要があります。その際にボトルネックになるのが、経営者の旧来の広告ビジネスに対する執着です。今までの成功体験が否定された気になり改革を断行できない、もしくは中途半端になる。これではいけません。これは否定ではなく、時流への対応なのです。

自社のポジションは?(出所:筆者作成)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.