クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタのいう「原価低減」とは「値切る話」ではない 部品不足と価格高騰池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/7 ページ)

» 2022年08月01日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

サプライヤーは、1社が脱落すれば全滅

 ただし、自動車メーカーにとっては、「信用毀損(きそん)」は洒落(しゃれ)にならない。ブランドが日々削られていく思いだろう。そこで「お客様をお待たせしてはならない」という大正義が発動し、サプライヤーに対して無理矢理にでも部品を供給せよと指示を出すことになる。

 しかし、サプライヤーの中には、どんなに厳しくいわれようとも無理なものは無理で、納品できない業者がいる。そういう会社がサプライチェーンの中に1社でもあれば、不足した部品のせいで、生産が止まる。必死に納品を間に合わせようとしている他社はバカを見る。例えば普段船便で運んでいた原材料を、利益度外視の高価な運賃を払って航空便で間に合わせようとした挙げ句、やっぱり要らないと言われれば、憤懣(ふんまん)やるかたないのは当然だろう。

トヨタの工場の様子(筆者撮影)

 ただし、ここで考えなくてはならないのは、別にメーカーの都合で止めているわけではないという点だ。メーカーだって作りたい。けれどもサプライヤーのうちの1社が、必死に努力した結果、力及ばず納品できなかったのだ。巻き添えを食らった他のサプライヤーにしてみれば、明日は我が身、納品できなかったサプライヤーを責めることはできないし、かといって、そこでメーカーを責めても仕方がない。メーカーがそうした声に対応しようとすればサプライヤーへの圧力がさらに強まるだけで、結局自分で自分の首を絞めることにしかならない。

 「もうお客様に納期の遅れを許してもらおう」という出口へ進めば、誰も無理する必要がないかもしれないが、信用が毀損してクルマが売れなくなる。「3年待ちです」と言われた契約書にハンコを押す客は希だろう。クルマが売れなくなれば、部品も売れない。メーカーだけでなくサプライヤーも一緒に沈む。それでは意味がない。

 では一体どうするのかといえば、それはもう情報の精度を上げる以外にない。メーカーはサプライヤーの状況を個別に把握し、納品の確度とズレの予想を綿密に立て、その誤差を生産計画の中で消化していく。そしてそのプロセスの連絡を高頻度かつ可能な限り早いタイミングでサプライヤーに戻していくのだ。

 しかしながら構造的にこの情報収集は、メーカー1社が頑張ってもどうにもならない。各サプライヤーが、自社の下階層サプライヤーの納期も含めて緻密に把握しなければ全ては始まらない。しかし、それができなければどういう目に遭うかはサプライヤー自身が痛いほど知っているので、協力せざるを得ない。

 「じゃあ、それで頑張りましょう」で済めば良いが、サプライヤー側はそうはいかない。図を見てわかるように利益が激減している。なにしろ原材料などが高騰し、輸送で無理をし、さらに納品が止まる。踏んだり蹴ったりの状態で、自力で頑張ってどうなる状態でもない。そこはどうなっているのだろうか?

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