なぜ純木造ビルに挑戦? 耐火・耐震性を保つための技術の粋日本の林業を活性化できるか(3/5 ページ)

» 2022年08月04日 07時30分 公開
[大村果歩ITmedia]

木造の可能性

 そもそも、なぜ大林組は耐震性、耐火性の担保など課題が多いなか、純木造建築物を建設したのか。

 岡さんによると、木材の使用はCO2削減に効果的だという。木が育つ過程で吸収したCO2は、伐採されて木材となった後も炭素として定着される。CO2を「固定化」する機能として知られており、この機能がCO2削減に貢献するとされている。Port Plusでは1990立方メートルの木材を使用しており、これにより約1652トンのCO2を固定。材料製作から建設、解体・廃棄までのライフサイクル全体では、鉄骨造と比べて約1700トンのCO2削減効果を見込む。

木造 材料製作から建設、解体・廃棄まで、鉄骨造と比べて約1700トンのCO2削減効果を見込む(提供:大林組)
木造 Port Plusの木材使用量(提供:大林組)

 もう1つ、同社がPort Plusを建設した背景には「日本における林業の活性化」に対する思いがある。

 「世界的に森は減っていますが、日本の森は増えています。しかし、木々の多くが高齢です。木は樹齢50年を超えると炭素の固定量が減ってしまいます。CO2を固定するという文脈でも、森は新陳代謝をすることが重要です。樹齢50年を超える木は、木材として活用し、新たな苗木を植えるべきなのですが、現状は林業が衰退してしまっているため、十分にはできていません」(岡さん)

木造 大林組はなぜ木造にこだわるのか(提供:大林組)

 日本は戦後の経済復興の際に、人工林を多く整備した。しかし、海外の木材のほうが価格が安く、かつ加工済みのものが流通しており使い勝手が良いため、日本の木材は売れなくなり、人工林は放置されたという。

 「日本には木が有り余っていますが、価格が高く売れ行きは悪いです。日本の木材が高いのは、森の多くが斜面地であることによる生産性の悪さや、流通、供給の体制がしっかり構築できていないことが原因です。Port Plusを皮切りに、木材の魅力を発信し、木材の需要を増やしたいと考えています。需要と供給を両軸で増やし、森林を循環させることで、日本の林業の体制が整っていくことを願っています」(岡さん)

木造 木造を強化し、林業の活性化に寄与できるか(提供:大林組、撮影:エスエス 走出直道)

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