「乗客1000人未満」でローカル線を廃止? 存廃議論「国は積極的に関与すべき」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/9 ページ)

» 2022年08月06日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

2000人未満が1000人未満になった意味

 この状況を踏まえて、国土交通省は「1000人/日未満」という新たな指標を発表した。これはどういう意味があるか。断片的な報道だけでは「いよいよ1000人/日未満を廃止する方向か」「1000人/日以上2000人/日未満は存廃対象から外れた」と受け止められてしまう。どちらも正しくない。

 国土交通省が発表した文書「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」は、A4版70ページ、表紙などを除いて66ページ。本編は44ページ、資料編22ページという長大な資料だ。とりまとめは国土交通省が招致した有識者による「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が行なった。22年2月から同年7月まで5回にわたり開催された。半年も経たずに提言が出された。緊急性の高い案件といえる。

 このなかで「1000人/日未満」という文言は31ページにある。

 当面は、対象線区における平常時の輸送密度が1000人(国鉄再建特措法に基づく旧国鉄のバス転換の基準4000人の4分の1の水準)を下回っていること(ただし、利用状況を精査した結果、隣接する駅の間のいずれかの区間において一方向に係る1時間当たりの最大旅客輸送人員が500人(大型バス(50人乗り)10台以上の需要に相当)以上の場合を除く)を一つの目安としつつ、より厳しい状況にある線区から優先順位を付けながら総合的に判断)

 さらに39ページに「地域の実情に対応した新たな輸送サービスの導入に関する支援メニュー(例)」と題して、バス転換を支援するような文言が続く。「BRTに関する法的適用関係の整理、導入手続きの簡素化」「利用者ニーズにマッチしたBRT・バスの円滑な導入を支援」「鉄道と同等またはそれ以上の利便性と持続可能性を確保するために必要となる追加的な投資(略)への支援」「自治体と協力してバス事業に対する運行費補助等の支援制度を適用」となっている。

 新聞やテレビが簡潔にまとめようとすれば、このような部分だけを拾う。ここだけを見れば「1000人未満は存廃論議」という見出しをつけるしかない。その結果、短絡的で、数字を出せば耳目を集められるという報道になる。そんなことをいえばこの記事もそうなのだが。もう少し丁寧に紹介していきたい。

JR東日本の大船渡線BRT。線路だった場所をバス専用道とし定時制を確保している

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.