東急東横線に「Q SEAT」導入、なぜ“一部”指定席を進めるのか「座れる」をサービスに(2/4 ページ)

» 2022年08月11日 08時00分 公開
[小林拓矢ITmedia]

他社とは違う背景を持つ東急電鉄

 東急電鉄では、比較的長距離となる東急田園都市線に着席サービスが必要だと考えた。しかし東急田園都市線の渋谷駅は、島式ホーム1面2線であり、普段からホームには余裕がない。東京メトロ半蔵門線から乗り入れるゆえに、三越前や大手町始発という列車もあり得たが、混雑路線である半蔵門線のダイヤをさらに調整しなくてはならない。ゆえに、東急田園都市線のもう1つの直通路線である東急大井町線との直通とした。

 着席列車の頻度を多くしてさまざまな時間帯の着席ニーズに応じる代わりに、専用列車ではなく普段運行している列車に組み込むことでダイヤ上のネックを解消。発駅も大井町駅と東急電鉄の中だけで完結するようにし、渋谷方面発にしないことで半蔵門線、田園都市線の混雑を緩和する方法を取った。その結果、関東圏他社では見られない「一部座席のみを指定席とする」列車が誕生したのだ。

 こうした他社とは違う背景を持つ東急電鉄が、2023年度以降新たに「Q SEAT」の導入を決定したのは東急東横線である。

東急電鉄の5050系車両

 東急グループは、「選ばれる沿線」戦略の第一人者である。しかし東急田園都市線、特に渋谷寄りの混雑や、東急東横線の距離の短さにより、鉄道そのものの乗車体験による快適さを提供する戦略は、打ち出しにくかった。

 近隣の小田急電鉄のように、「ロマンスカー」を走らせるほどの運行距離はないのだ。西武鉄道にまで乗り入れるからこそ、座席指定制の有料列車「S-TRAIN」は成立するのである。

 乗車距離は短い、着席サービスを提供したいとなると、特別な座席指定車両を一部で提供することになる。その際に先例になったのは自社内の「Q SEAT」である。

 「Q SEAT」という先例を受けて、東急電鉄では「新・中期事業戦略“3つの変革・4つの価値”」を策定した中で、「都市交通における快適性の向上と課題の解決」という項目を設け、その一環として有料着席サービスの拡充を打ち出している。

 とはいえ、東急電鉄で有料着席サービスを導入できる路線は少ない。比較的長い路線は田園都市線と東横線のみである。目黒線は、乗り入れ先の東京メトロや都営地下鉄との調整が必要であり、さらには今後直通する相鉄線との関係を考慮することも必要である。

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