クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜクルマの電装用バッテリーはリチウムにならないのか高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)

» 2022年08月22日 12時55分 公開
[高根英幸ITmedia]

アイドリングストップ機能の功罪

 近年はエンジン車のバッテリーも大型化、大容量化が進んでいる。その理由はもちろん電装品の多様化や複雑化により、電力供給の必要性が高まっているからだ。特にアイドリングストップ機構がバッテリーの負担を増大させている。

 車検ごとに4、5万円はするアイドリングストップ車専用のバッテリーを新品に交換させられるユーザーは、燃費の軽減効果を感じにくいという、何とも微妙な状況なのである。

 もちろんアイドリングストップは経済的な効果だけでなく、燃料を節約することで大気汚染も軽減することにつながる。しかし再始動時には濃い燃料によりエンジンオイルを汚し、排気ガスの濃度も高めてしまうから、ゴーストップの多い日本ではデメリットも小さくない。

 このアイドリングストップはJC08モードのカタログ燃費対策だった要素も大きいから、今後は制御が見直されてより実情に合ったものへと熟成されていくのではないだろうか。

 鉛酸バッテリーの場合、通常の経年劣化は放電時に起こる、硫酸鉛が結晶化して極板表面を覆ってしまうサルフェーションという現象がある。これはバッテリー液の希薄化と極板の導通低下を引き起こし、バッテリーの起電力を徐々に低下させていくのだ。

 これは低電流の状態に多く発生するので、特に停めっぱなしの自然放電時は影響が大きい。つまり乗らないユーザーほどバッテリーの寿命が短くなるという皮肉な結論に陥るのだ。

真夏も真冬も、1年を通じてロードサービスの救援項目でバッテリー上がりはトップ3に入るほど、トラブルの常連だ。それだけメンテナンスフリーであり、バッテリーが重要な役割となっていることを表している

 このサルフェーションを解消させるパルス充電という解決策もある。筆者はバッテリーにパルス発生器を取り付けて、バッテリーの長寿命化を体感している。しかし自分でバッテリーを補充電するという習慣が、一般のドライバーにはほとんどない(月極駐車場では電源を確保できないこともある)ことも、バッテリーの寿命を縮めている要素の一つだ。

 先日、パルス発生器を製造販売していたメーカーの1社に話を聞く機会があった。すると昨今の半導体不足もあり、現在は販売を終了しているという。

 取り扱うカー用品店の中には、パルス発生器を取り付けるとバッテリーの寿命が伸びるのでバッテリーを交換しなくなるため、バッテリーが売れなくなるので困る、という本末転倒な理由で取り扱いを中止したところもあるそうだ。カー用品店にとって売り上げは大事だろうが、長い目でクルマを楽しむユーザーを確保し続けるために、ユーザーのためになる商品を販売する姿勢を貫いていただきたいものである。

 氷点下から猛暑まで対応できて、万が一の衝突事故などで損傷を受けても火災の原因とはなりにくいなど、鉛酸バッテリーのメリットは依然として大きい。

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