またある人は、こんな話をしてくれました。
「私は会社に大した貢献もできなかった。目立たない存在でしたし、同期でも私のことを覚えてないヤツラもいるんじゃないですかね(笑)。でも、退職の日に『僕、〇〇さんに一度でいいから褒めてもらいたかった。それがモチベーションになっていたんです。〇〇さんの仕事との向き合い方が好きでした』って、30代の若い人に言われました。思いがけない一言で……。その一言に救われました。自分もここで働いていた意味があったんだなって。うれしかったです」
会社を支えているのは、会社が評価する人だけではありません。
部下や後輩が慕うのは、肩書きではなく、人。「その人がどういう人間か」が問題なのです。
「部下はね、その時は感謝するかもしれない。でもね、やがて忘れるんだよ。せいぜい何十年か後に訃報を聞いて葬式に出るくらいかな」と笑い飛ばす人もいるかもしれません。
でも、どうしても最後のお礼を言いたいから、最後のお別れをしたいから、部下や後輩は葬式に足を運ぶ。「語る言葉のある人」たちに見送られる故人を、うらやましく思った経験は誰にもであるのではないでしょうか。
会社のためではなく、人生のために働く。できればお金はたくさん欲しいけど、持てるものが常に幸せというほど人生は単純ではありません。たとえ会社に評価されなくても、一緒に働いた仲間や部下の“心の上司”になれたら、少しだけ人生が豊かになるように思います。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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