社長が連れてきた「すごい人」は役立たず!? DXを失敗に導く7つの要素成功するには?(3/5 ページ)

» 2022年08月30日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

果たして成果といえるのか

(2):優先順位を決める的確な判断基準の問題

 DXといっても広義で、一体何から着手すればよいのか分からない人も多いかと思います。その際には次の図の右下にあるように、「顧客の対応が高度化していくこと」と「自社が非効率になっていること」の領域から着手することを推奨します。

 「顧客の対応が高度化していくこと」とは、顧客が欲しい商品にたどり着くまでをテクノロジーによって円滑にすることや、最適な品ぞろえや価格を明らかにすることなどを意味します。顧客への対応を高度化すること≒自社の業績向上と捉えると分かりやすいかもしれません。

 「自社が非効率になっていること」とは、申請書や押印がアナログになっているため、紙で出力し、オフィスで上長を探して直接渡しに行くといったことを意味します。こうしたことは、よくあるケースかと思います。

筆者作成

 多くの企業は左下の「顧客対応が高度化していくポテンシャルが低く」「自社が非効率になっていること」の領域から着手しがちです。具体的には、本社の人事部、経理部、法務部、ITシステム部などの業務を効率化するケースが多くなります。経理部にRPA(Robotic Process Automation)を入れる、人事部が履歴書を確認する作業をOCRで読み取りデータ管理する、法務部が契約書管理をしやすいようにSaaSのサービスを導入するなどです。

 果たしてこれで業績は上がるのでしょうか? もしくは販管費は下がるのでしょうか? よくある結果は、対象部門の社員から不満が減ったという変化です。今までは多少バタバタと焦りながら仕事をしていたことが、システム導入によってゆったりできるようになった――。そんなイメージです。

 これは成果といえるでしょうか? DXは効率化ではなく、業務の高度化を通じて業績に貢献して初めて成果といえます。業務を効率化し、捻出された時間で顧客のために何をするのか、人事部や法務部でもその視点を持つことが必要です。自分たちの業務を高度化し、営業現場のメンバーが円滑に動けるようになり、顧客からの支持向上につなげることができるか。そういう意味では、DXをきっかけに全従業員の意識改革をすることが必要になるほど、DXは経営の根幹にかかわるテーマなのです。

(3):仮説思考の希薄さ

 次のような質問を社内で投げかけられた時、DXに関わる全メンバーは即答できるでしょうか?

 「DXによってわれわれが解決すべきは客単価の向上ですか? 客数増ですか? 1人当たりの買い上げ点数増ですか? リピート率向上ですか? 販管費の削減ですか?」

 さて、皆さまなら自社のDXにおいて上記の質問をされたら、何と答えるでしょうか。

 DXは何から何までを着手すればよいという総花的なものではありません。課題の仮説を作り、それを検証し、実行プランを描く――。この繰り返しです。あれもこれもと手を付けたり他社のマネをするだけでは決して有効に作用しません。

 自社の課題仮説なく、IT企業やコンサル会社から紹介されたSaaSのツールを導入したり、競合他社がやっていることを追随してみたりということでは、自社ならではの課題解決という成果は弱くなります。とりあえず導入検討してみようというDXではなく、仮説ありきのDXが必ず必要です。これはDXに限らずマーケティングにおいて仮説思考のアプローチが重要なのと本質的には変わりません。

 次の図は小売業におけるDXの全体像です。これら全てのテーマに着手することが必要なのではなく、自社としてはどこが課題でどの内容を構築できると顧客からの支持を向上させることにつながるか。この仮説をまず考え、それを検証するというアプローチが先決です。あくまで小売業の例ですから、自社の業界に合わせて全体像を描き、その中で何をどのような目的で着手するのかを選定していきましょう。

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