(4)「戦略がおざなり」、(5)「現場視点がおざなり」という点については、これまでにある程度触れました。上流の戦略と現場をいかに融合させるかが大事です。そのために、DXに関わるメンバーは戦略と店舗・現場を熟知し、不足する知見や経験を早急に補う必要があります。今のスキルでDXに臨むのではなく、成功するDXのために備えなくてはいけないことは何かという目標水準ありきでアプローチすることが前提です。
パートナー企業の選定は、大変根深い問題です。企業がDXを推進するにあたっては、コンサル会社とIT企業の協力が不可欠です。この2つのプレーヤーには現在、「DXバブル」といわれるほどの数の案件が殺到しています。社員数は倍増、株価は数百%アップという企業も1社や2社ではありません。
一方、筆者は「DXに大成功した事例がある」という顧客側の目線に立ったニュースが少ないように感じます。これには次のような要因が挙げられます。
こうした文章を読んで、「本当にそんなことってあるの?」と考える人も多いかと思います。しかし、残念ながらこうしたケースもあるのです。
顧客企業はDXをとにかく推進しなくてはならない(社長命令も下っている)。一方、コンサル会社はDXバブルなのでメンバーが不足しています。コンサル会社は「今空いているのはこのメンバーだけです」とリストを提示した上で、「その期間、メンバー全員は御社以外の業務はしません。100%稼働です」と説明します。メンバー1人の1カ月当たり平均単価が400万円ほどになるとして、10人張り付くと、「月間4000万円×12カ月=4.8億円」という見積書が出てきます。
「早く決めてくれないと他の案件にメンバーが取られ、この10人も担当できなくなる可能性があります」と煽りを入れてくる場合もあります。そうなると、「有名なコンサル会社だから大丈夫だろう」という雑な決断をせざるを得なくなります。
顧客が「100%稼働でなく50%くらいでもよいのですが」と打診しても、コンサル会社やIT企業からは「弊社は100%稼働を基本にしております。品質を担保するためにも、1案件しか担当させないことが御社のためでもあります」という返答がきます。しかし、若手メンバーをとにかく100%稼働させて、売り上げ目標を達成してしまいたいという事情が背景にあるかもしれません。
仮に、50%稼働にするとどうなるでしょうか。同じように50%稼働を必要とするような都合のよい案件が出てこないこともあります。すると、アベイラブル(業務をせず空いている)期間が長くなり、コンサル会社の収益性が下がるのです。
中小企業において、チャットツールやパッケージ化されたSaaSサービスを導入することや、Web広告を増やすことが、あたかもDXであるとアピールする事例も散見されます。これらに大きな変革要素があるわけでもないのに、「DX」とうたい、契約を取るようなコンサル会社さえ存在します。
業界ならではのビジネス特性やKPIを、コンサル会社やIT企業のメンバーがプロジェクトに入ってから学んでいるような状況も見られます。それではまるで、研修費を顧客が払ってあげているようなものです。担当するコンサル会社やIT企業のメンバーが、業界とITに本当に高い知見を備えているか入念に確認してから契約を結ぶようにしましょう。あくまで主役は顧客である企業側ですから、コンサル会社やIT会社に丸投げしたり、依存しすぎたりしないよう注意しましょう。
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