従業員のキャリア自律心を育成するために、社員が自ら手を挙げて次のキャリアに応募できる、公募制度を作ったとします。この時、手を挙げようとする従業員の心情はどのようなものでしょうか。下記の他、さまざまなことが気になるはずです。
これまで自律的なキャリアを支援する文化が社内で育っていない場合、それ相応の心配りと支援が必要です。
これを意識しなければ、公募で落ちた人が辞めてしまう、あるいはパフォーマンスが下がるといった影響が考えられます。それだけでなく、積極的な公募がなくなり逃避的な異動希望ばかりが残る、公募する人がいなくなるなどの事態が発生し、制度自体が形骸化することもあり得ます。
これを防ぐために、例えば公募希望者の所属上長には「合格したときだけ伝え、拒否権を持たせない」あるいは「合格したときだけ伝える」といった運用での対応が可能です。
また、いわゆる引き抜きを警戒する事業部門長に対しては「なぜ会社で公募制度が必要なのか」を丁寧に説明する必要があります。両者納得の上で公募制度をスタートさせなければ、結局事業部門長の協力が得られないため、制度が形骸化してしまうからです。この場合は、応募者のみならず、現場管理職の納得感を醸成するための活動が必要です。
このように、人事施策を実行する際には、さまざまな立場の従業員に対し、心情面のアラインメントを取る必要があります。
戦略人事を実現し、人事施策を成功させるために最も難しいことは、通常では人事業務の外にある内容についても、考慮に入れる必要があることです。
例えば、経営戦略で新規顧客の獲得にさらに力を入れることになったとします。その際に取り得る施策としては、営業部門における目標管理内容の変更が考えられます。そこで、営業部門における目標管理内容に新規顧客の獲得を重視するためのKPIが設けられ、現場も決められた規則に沿って各自がKPIを設定したとします。しかし、現場が既存顧客を対象にした業務でフル稼働している場合、従業員は新規顧客獲得のために動けるでしょうか。
新規顧客の獲得という新業務には、既存顧客を対象にした業務とは異なる能力──例えばこれまで接点のなかった方のアポイントを取る能力などが必要になります。従業員にはこの新しい能力を習得するための負荷がかかりますが、目の前の業務で手一杯な状態では、既存の業務を進める従業員が大半になることは容易に想定されます。
現場だけで解決できない場合には、人事部門も積極的に現場の業務量を減らしたり、より業務効率性が上がるような仕掛け作りに参画する必要があります。このように、変化を促すための人事施策を考える際には、現場の既存業務の見直しや新しい業務への移行可能性など、通常人事部の業務範囲ではないと思われるような現場の業務面におけるフォローも必要です。
本稿では、下記のことをご説明してきました。
こうしたことを人事部門として実行するには、人事部門としての知見のみならず、ビジネス・現場への理解が非常に重要です。また、経営層/事業部門長/従業員と協力し、施策実現に向けてステークホルダーの理解を得る必要もあります。
奈良和正 株式会社Works Human Intelligence WHI総研
2016年にWorks Human Intelligenceの前身であるワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。
現在は、タレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。
大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1200法人グループへの導入実績を持つ。
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