なぜ福岡市は成果を出し続けられるのか。地道な営業活動の継続が一つずつ実を結んだ結果と言えるだろう。また、14年の国家戦略特区指定も目標達成に寄与していると推測される。特例としての規制緩和によって、新技術の実証実験などにチャレンジしやすくなったのだ。例えば、視認できない範囲でのドローン操縦や電動キックバイクの公道走行など、他地域では法律で禁止されている行為を展開できる。
この特長を生かし、福岡市は「実証実験フルサポート事業」として実証実験プロジェクトに力を入れている。これによって、福岡進出を狙う企業と福岡の既存企業とのコラボレーションも盛んになったという。コロナ禍では、東京のフードデリバリーサービス「タイミーデリバリー」と福岡市民が日常的に使うシェアサイクルサービス「チャリチャリ」が手を組み実証実験を実施した。IT系企業の間では「福岡市=面白いことができる都市」との認識が高まりつつあることがうかがえる。
また、交通の便も有利に働いている。空港と都心が地下鉄で5駅(約11分)と近いのも、福岡市ならではの特長だ。しかもオフィスの賃料は東京のおよそ半分程度で、人的コストも低い。ASEANの外資系企業に対しては、東京よりむしろ福岡のほうが利便性・コスト面で競争優位性を築いているほどだ。
さらに人材の豊富さも海外企業には魅力的に映る。日本全体で人口減少が進む中、福岡市は毎年1万人程度の転入超過があり、人が増え続けている。そのうえ、市内には13の大学をはじめ学校が数多く存在し、九州各県から優秀な学生が集まってくる。このようなアピールポイントから、同市では毎年10〜15社程度の外資系企業を継続的に誘致できている。
順風満帆なように見えるかもしれないが、もちろん課題もある。まずは、企業誘致に伴う雇用者数の目標(年間3000人)が12年度以降、未達だということだ。誘致企業数50社の目標をクリアし続ける一方で雇用者数が伸び悩んでいるのは、誘致企業の業態によるところが大きい。先述したように、同市が誘致に力を入れるIT・クリエイティブ系企業、中でもスタートアップ企業は人数規模が小さく、雇用を生み出しにくいのだ。今後は本社機能の移転や大きな開発拠点など、誘致候補企業の選定に力を入れるとのこと。とはいえ、「あまり数だけを追いすぎず、市民の皆さんに『こんな会社が福岡に来てくれたんだ』と思ってもらえるようにしたい」(楠本氏)という。
そして最も大きな課題は、豊富な若手人材が流出している現状だ。進学のために福岡市内に集まってきた学生の約6割が、就職のタイミングで市外に出ていってしまうという。これに対しては「東京・大阪といった大都市圏に若者が出ていかないよう、そして一度外に出て経験を積んだ人材に戻ってきてもらえるよう、地元福岡に魅力的な企業を次々と誘致していきたい」と、楠本氏と江澤氏は意気込みを見せた。
現在福岡市では、航空法高さ制限の特例承認や福岡市独自の容積率緩和などを組み合わせ、高層オフィスビルを続々と建設している。「天神ビッグバン」というプロジェクト名で、24年までに30棟のビルの建て替えを目標に据える。一時は大きく低下していた主要ビジネス地区のオフィス空室率は現在5%まで回復(日本経済新聞 22.06.10)し、企業が入居先を選べるような状況が戻ってきている 。リモートワークの推進や地方創生の流れから、「あの会社が福岡に?!」と驚くようなニュースを見る日もそう遠くはないかもしれない。
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