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ワーケーション2.0に挑戦 地域の課題と魅力が混在するカオスに振り回された「観光のついで」はもう古い(1/4 ページ)

» 2022年08月23日 08時00分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 8月某日、福岡県の山奥・八女市にある集落の一番奥の古民家「Sky Tea House」に筆者はいた。茶の販売をしながら日本縦断を計画している古民家のオーナー、田舎の風景を切り取ったショート動画が人気のインフルエンサーと放浪中の青年、そして筆者という統一感のない顔ぶれが大量のそうめんを囲んで食卓についている。テーブルにはネギやのり、裏庭に自生しているというミョウガやショウガなどの薬味が置かれた。

そうめんを囲むオーナー(中央)とインフルエンサー(左下)と青年(右下)

 インフルエンサーはインスタグラムやTikTokで20万以上のフォロワーを持つ「セミ」というアカウント名の女性だった。TikTokで日本縦断のリアルタイム発信を意気込んでいるオーナー坂本治郎さんと(なぜかオーナーのTikTokマネージャー的な立ち位置の)青年はセミさんからTikTok運用について指導を受けていた。その横で筆者も時折「すごいですね」「(写真を見て)かわいい」などなんとも言えないコメントを口にしながら薬味たっぷりのそうめんをダイソンのように吸い込んでいた。

 弊誌では現在、「企業誘致・ワーケーション特集」を展開している。特集担当に任命された筆者は、そこから関連するイベントやウェビナーなどに参加。とあるウェビナーで、関西大学社会学部の松下慶太教授が提唱する「ワーケーション2.0」という考えに出合った。

 松下教授によると、従来のワーケーションはコロナ禍で落ち込んだ観光需要を代替・穴埋めするという位置付けだった。そのため、ワーカーたちは単発・短期間の観光客(交流人口)として見られ、長期的な町への還元という観点での期待は小さかったという。

 一方、ワーケーション2.0はまずワーカーを消費者ではなくパートナーと位置付ける点が従来とは大きく異なる。ワーカーたちを継続・連続あるいは比較的長期間滞在できる・したくなる、つまり関係人口になるような環境を整えていくことが町にも求められるようになった。また、その環境整備にワーカーが携わることで一緒に町を作っていく取り組みも広がっていく――それが松下教授の考えだった。

従来のワーケーション1.0とワーケーション2.0(出典:SDGsデジタル社会推進機構「ODS第7回研究会」の開催レポートより)

 2020年に実施された国勢調査では、今後30年間で過疎指定市町村の50.7%で人口が半減するとの予測が出ている。9割の過疎指定市町村で3割以上の人口減少が見込まれるという。ワーケーション2.0の浸透はワーカーの移住意欲を刺激したり、地域での副業にチャレンジしたりといった活動への波及も期待できそうだ。

 働く場所や時間の制約の緩和に伴い、働き方の多様化が日本でも進む。筆者の会社もフルリモートを採用している。今回、出張のついでにワーケーション2.0を体験してみようと思い、地元住民と距離が近そうな福岡の山奥に来てみたのだが、まさか初日から異色のメンバーでそうめんを囲むとは既に滞在2時間で想像の斜め上の状況だ。

古民家の外観(画像:Sky Tea House提供)
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