北海道厚沢部町という人口たった3500人の過疎町に首都圏から訪れる子連れ家族が後を絶たない。新千歳空港から車で3時間弱と、決して利便性が高い町とは言えないだろう。にもかかわらず、なぜそんな町に人が集まるのか?
2021年11月に始まった「保育園留学」というサービスが要因だという。保育園留学とは、未就学児を持つ家族が厚沢部町に1〜3週間程度滞在するプログラム。昨今のトレンド風に言うとすれば、子連れワーケーションだ。現在の予約枠は全て埋まっており、9月以降も100家族以上が順番待ちをしている。過疎町の人気保育園を取材した。
保育園留学は、厚沢部町役場と認定こども園はぜる、キッチハイクを含む2社が連携して取り組む町づくり事業だ。日中、子どもははぜるに通い、保護者は町内の短期滞在者用住宅の中に設けられているコワーキングスペースで仕事をする。週末には、プログラムに含まれている野菜の収穫などの食育体験に参加できる。
首都圏の保育園で体験できない広大な自然にわが子を触れさせる絶好の機会と考えた家族連れが殺到しているのだ。22年7月には14家族を受け入れた。サービス開始から現在までの受け入れ家族数は600組に上る。
「都心だと自然環境に身を置く機会も少なく、こんなにたくさんの自然体験は初めて」「子どもの成長につながった」など参加した保護者からの満足度も高い。
保育園留学のプログラムが誕生したのは、プログラムの運営企業であるキッチハイク代表の山本雅也氏が厚沢部町に家族でワーケーションとして滞在したことがきっかけとなる。3週間の滞在の中ではぜるにも訪問。自然に囲まれた保育環境は首都圏の子連れ家族の関心を集めるだろうと確信し、本格的に事業として展開していく。狙い通り、首都圏の保護者から予約が殺到しているわけだが、はぜるの子どもたちや保育士は町外の子どもを受け入れることに対する戸惑いはなかったのだろうか。
「厚沢部町は過疎の町です。出生率が下がっているのに加え、町からどんどん人が出て行ってしまう。どんな形であれ、新しく人が入ってきてくれるのは喜ばしい変化だと思いました」とはぜるの主任保育教諭 橋端純恵さんは話す。
少子化問題を十分に理解している大人であれば、こういった新しい取り組みに積極的なのも理解できる。しかし、実際に保育園で受け入れた子どもと一緒に遊ぶのはすでにはぜるに在籍している子どもたちがメインになる。顔なじみの友達と過ごしてきた彼らは、「明日から新しい子どもがたくさん入園する」という事実に適応することができるのだろうか。
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