低すぎる日本企業のDX成功率 DX迷子に陥る3つの要因DXの本当の進め方(前編)(3/4 ページ)

» 2022年10月03日 07時30分 公開

B社の失敗はなぜ起こった? DXが進まないワケ

 DXが進まない理由を挙げれば枚挙にいとまがないが、大きく分けると3つの傾向が見て取れる。「そもそも成功の定義ができていない」「実行の体制が整っていない」「DXを正しく理解していない」という3つである。それぞれ順に解説していく。

1. そもそも成功の定義ができていない

 DXが進まないと感じる理由を少し掘り下げていくと、ある一定の水準に届かないといった悩みよりも、正しい方向に進んでいる気がしないといった”迷子感”を上げるDX担当者は少なくない。テーマとしてDXを与えられるものの、一体どこを目指していくのかが曖昧なまま暗中模索しているのである。これはつまり、DXによって成し遂げられるはずの「成功」の定義ができていないのである。

 例えば、「顧客満足度スコア4以上を目指す」といった定量的な目標に関連してDXが語られている場合においては、このような迷子は発生しにくい。なぜならば、その定量的な目標が達成されたかどうかが分かりやすい成功指標となるからである。しかし、DXが語られる文脈の多くは「企業像」に結び付くことが多く、定量的な目標に関連している方がまれというのが筆者の実感だ。「企業像=ありたい姿」は得てして抽象的なものであるため、DXの成功を定量的に計測する指標として適していない。

2. 実行の体制が整っていない

 社内にDXの冠がついた部門・部署があれば一見「体制」に問題はないように見えるかもしれないが、部門にただ人を集めただけでは体制が「整っている」とは言えない。では人以外に何を備えれば実行の体制が整っていると断じることができるのだろうか。

 最初に挙げられるのが、この実行組織が持つ権限範囲の拡大である。このDX推進組織が全社のデータ処理に関するさまざまな権限(アーキテクチャの設計やルールの整備など)を扱えるようにする。当社のクライアントにも、DX推進部隊がデータ分析のための基盤の主管部門を担っていることによって、各部門にDX推進により得られる実利を認識させ、合意形成につなげた成功事例もあると聞く。

 次に挙げたいのは、この実行組織が主体的に扱える予算である。DX関連の全予算を掌握できていることが望ましいが、DXで手を付ける範囲は幅広く、部門ごとの予算承認になりがちというのが日本企業のよくある風景である。DX推進は経営者や経営層の意思や意向が(良くも悪くも)強く反映される特性を持っている。だからこそ経営者には、基盤整備や権限移譲など実行組織が改革を進めやすい土壌を整えてもらいたい。

3. DXを正しく理解していない

 DXを正しく理解しているかどうかを簡単にチェックする方法がある。以下の質問に対してどんな答えを持っているかで判断できる。

【問い】あなたが今実行しようとしているDXの費用対効果(ROI)を説明できますか?


 「何億円の投資を何年で回収できる」「計算はまだだが、効果が投資を上回るはず」という回答が正解のように聞こえるが、DXを正しく理解しているかどうかという側面で判定すると、残念ながら理解度は低いと言わざるを得ない。

 筆者が考える正解は「費用対効果(ROI)は分からない」だ。DXの費用対効果は計算で導き出して損得を勘定する「P/L(Profit/Loss)」思考で考えるのではなく、長期的に会社の資産とする「B/S(バランスシート)」思考で考えるべきというのが筆者の主張にあたる。

 DXの文脈では投資とその回収プランがセットになって語られてしまう場面も少なくない。DXでROIが測れるものもあるが、それはDXという大きな概念に基づいて進められるデジタル化プロジェクトやIT投資のROIを指す。DXを推進するトップが「B/S思考」でDXという取り組みを捉えられているかがDXを成功に導く第一歩になると言えるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.