近年、百貨店を中心に「売ることを主目的としない」新たなビジネスモデルが広がる。「売らない店舗」といった愛称で知られ、実際の店舗に商品の見本だけ置き、利用者には体験の機会を提供。その後、QRコードを読み込んでECサイトから購入してもらうという流れだ。リアル店舗とネット通販の融合――。関係者に話を聞いてみると、百貨店と出店者の双方にメリットが生まれているという。
大丸東京店の売らない店舗「明日見世(あすみせ)」。4階の婦人服売り場の一角に、シンプルながらもスタイリッシュな店構えが存在感を放つ。D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)ブランド向けのショールーミング型店舗として2021年10月にオープンし、1年が経過する。オープン以来、3カ月ごとに展開ブランドを入れ替え、これまでに出店したのは、アパレルや雑貨など98ブランドに上る。このうち、5ブランドが2回以上の「リピート出店」をしているという。
店舗には、出店ブランドから商品に関する講習を受けたアンバサダーが常駐し、来店者に商品の機能性や開発に込められたストーリーなどを説明する。
明日見世のプロジェクトリーダーを務める大丸松坂屋百貨店デジタル事業開発担当の廣澤健太さんは「リアル店舗とアンバサダーの強みを生かし、SNSやECサイトでの販促だけでは手が届かない顧客の要望に応えられている」と手応えを語る。
コロナ禍で自宅に居ながら非接触でショッピングを楽しめるECサイトが伸長した一方、百貨店はアフターコロナを見据え、新たなビジネスの活路を探ってきた。その1つが「売らない店舗」だ。
大丸東京店の明日見世は「サステナブル」「プロダクトの機能美」「固定観念から脱却できる商品背景」――の3点を満たすブランド展開を心掛け、これまで百貨店のメイン顧客ではなかった20〜30代のミレニアム世代をターゲットとしてきた。
実際に、来店者の年代別割合は20代が34%、30代が38%で、合わせて7割を超える。このうち76%が女性だといい、百貨店が狙いを定めてきた新規顧客の開拓が進んでいる。
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