クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

経団連モビリティ委員会発足の裏読み池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2022年09月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

突然自動車産業に強権発動

 しかしながら、菅義偉政権時に異変が起きた。世界的な脱炭素の流れを受けた政府が、突然自動車産業に強権を発動しはじめ、これに忖度(そんたく)した官庁が、猛烈なEVシフト政策を推し始めたのである。

 これに対して、自工会は、3度にわたる会長会見を開き、世界情勢のいかなる変化にも対応し得るためには、技術の間口を狭めるのではなく、むしろ間口を広げるべきだと強く反論した。誤解を防ぐために書いておくが、ここで豊田章男自工会会長が主張したのは「脱炭素などできない」という話ではない。「脱炭素は実現する。しかしその方法については、各社に一任してほしい。敵は炭素であって、内燃機関ではない」ということである。

 それは空手形ではない。堅牢な計画どころか、すでに20年かけて実現してきた実績を引っさげての主張である。2001年から19年までの実績ベースで見た場合、国別の自動車保有全体のCO2排出量は、米国がプラス9%、ドイツとオランダがプラス3%、フランスがマイナス1%、英国がマイナス9%という中で、日本はマイナス23%という突出した成果を挙げている。

過去20年の自動車CO2排出量の国際比較(自工会資料より)

 これだけの実績があり、具体的に実現可能な方法を用意していると自動車業界が主張しているにもかかわらず、それを無視したEV一辺倒のやり方を政治が押しつけようとした絵図に、筆者には見えていた。

 菅内閣はグリーンとデジタルを強く打ち出した内閣であり、これが大きな特徴となっていた。しかしながら菅氏個人としては、グリーンにもデジタルにも特別に造詣が深いわけではなく、菅氏と同じ神奈川県選出の河野太郎氏と小泉進次郎氏の意向が強く反映された形になった。蛇足だが、現在の菅氏の政治力の源泉となっているのは、この2人の将来有望な若手の後見人であることだ。それだけに2人の意向は反映されやすいといえる。

 河野太郎氏は永田町切っての反原発強硬派として知られ、再生可能エネルギーを強力に推し進める思想。菅政権で環境大臣に就任した小泉進次郎氏は、19年のCOP25で、化石賞を贈られてこっぴどく突き上げられたトラウマから、日本における脱炭素の第一人者になろうとしている。両名ともファミリービジネスでの太陽光発電会社との関係が取り沙汰されているが、そういうゴシップは筆者の好むところではないので、知りたい方は各自勝手に検索していただきたい。

 一方で、この2人、さらに当時の菅首相に振り付けをした人物がいるという噂が永田町界隈から複数回にわたって漏れてきた。それが水野弘道氏である。米テスラの社外取締役であり、日本の自動車産業を監督すべき経産省の立場とすれば、利益相反が懸念される水野氏を、菅氏は突如経済産業省の参与に任命した。

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