非常時のローミングやSIMなし緊急通報はなぜ実現困難なのか? KDDI大規模障害で注目房野麻子の「モバイルチェック」(2/6 ページ)

» 2022年09月26日 12時05分 公開
[房野麻子ITmedia]

携帯電話が待受状態になるための「Attach」と「Registration」

 ローミングについて取り上げる前に、まずは携帯電話の動作「Attach(アタッチ)」と「Registration(レジストレーション)」について押さえておこう。

携帯電話の「Attach」と「Registration」

 LTEにおけるAttachは「在圏確認」や「位置登録」と呼ばれることもある、端末が携帯電話ネットワークを使うための許可を取る動作だ。これによって端末がどの基地局と通信しているかを管理する。Registrationは音声通話の電話網を使うための許可を取る動作だ。Registrationによって、VoLTEに関する設備が、端末が電話できる状態であるかどうかを管理する。Registrationが済むと、端末から電話をかけたり、ほかの端末からの電話を受けたりすることができるようになる。

 AttachとRegistrationが行われる際に、キーとなるのが「SIM」と「加入者DB(HSS)」だ。SIMは端末に挿入するICチップで、最近では組み込み型のeSIMもある。加入者DBとは請求情報を管理しているものではなく、携帯電話ネットワーク上にある設備のこと。携帯電話がどの基地局のアンテナとつながっているのかや、端末に携帯電話ネットワークの利用を許可するかしないかを判定する重要な設備だ。

 このSIMと加入者DBはペアで動く。SIMには1つ1つ異なるIDが書き込まれており、一種の鍵となる。この鍵を照合する役割を担っているのが加入者DBだ。仮に不正に入手されたSIMカードでも、加入者DBに登録されていない場合はネットワークを使わせない。正しく契約していると、正しい鍵を使って携帯電話ネットワークの鍵を開けて使えるようになる、という仕組みだ。

 携帯電話ネットワークの利用許可はMME、音声通話の利用許可はVoLTEの設備にあるS-CSCFというところから実際には出されるが、この2つの設備は加入者DBにつながっており、最終的に許可するかどうかは加入者DBに依存している。

AttachとRegistrationが行われる際に「SIM」と「加入者DB(HSS)」が重要な役割を果たす

 携帯電話の電源を入れると、端末はデータ通信と音声通話それぞれで携帯電話ネットワークの利用を要求し(Attach)、MMEが要求を受け取って加入者DBで照合されると利用が許可される。データ通信はこれで可能になるが、音声通話の方はさらに携帯端末から利用の要求を出し(Registration)、受け取ったVoLTE設備が加入者DBに照合し、許可されれば音声通話が可能になる。これで携帯電話はデータ通信と音声通話が可能になり、待受状態となる。

携帯電話が待ち受け状態になるまでの流れ

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