件の男性のケースでは、それに拍車をかけたのが「まぁ、お互いうまくやろう」という先輩の一言でした。
お互いうまくやろう──。先輩は一体、どういう意味でこの一言をかけたのでしょうか?
「おまえも大変そうだけど、オレたちも大変なんだよ」と、自分たちも同じようにパワハラを受けていると言いたかったのでしょうか?
あるいは、「おまえのやり方にも問題があるから、もう少しちゃんとやれよ」と、暗に彼にも問題がある、と言いたかったのでしょうか?
真相は分かりません。しかし、一つだけ確かなのは、“傍観者“である先輩も「パワハラに結果的に手を貸した」という、歴然たる事実です。
そして、傍観者がパワハラを加速させる構造は、日本特有のものだと推察できる分析結果があります。
「子どもの世界は大人世界の縮図」と言われますが、1980年ごろから日本も含めて世界の国々で、「子どものいじめ」に関する研究が蓄積されています。その中で、日本には欧米とは異なる独特の「いじめの構造」があることが指摘されているのです。
欧米のいじめでは、「強い者が弱い者を攻撃する二層構造」が多いのに対し、日本では「いじめる人、いじめられる人、はやし立てる人、無関心な傍観者」という4種類の人で構成される「四層構造」がほとんど。四層構造では強者からの攻撃に加え、観衆や傍観者からの無視や仲間はずれといった、集団内の人間関係からの除外を図るいじめが多発します。いわば「集団による個の排除」です。
その結果、被害者は孤立し、「自分が悪いのでは?」と自分を責める傾向が強まることが分かりました。
もちろんこれは、「子どものいじめ」研究の中で確認されたものです。
しかし、大人社会の「村八分」などは、四層構造の典型的なケースですし、四層構造における「はやし立てる人」には、件の先輩のように「まぁ、お互いうまくやろう」とパワハラを批判しない人たちも含まれます。
さらに厄介なのは、四層構造の「無関心な傍観者」の多くが、自分がいじめに加担しているという意識がほぼないという、困ったリアルです。
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