70年の悲願、「新金線旅客化計画」の現在杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)

» 2022年10月22日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

葛飾区の調査進む

 前葛飾区議(2021年葛飾区長候補)のうめだ信利氏の公式サイトに経緯が紹介されている。葛飾区議会は1983年に「新金貨物線の旅客化に関する意見書」を全会一致で採択した。しかし当時から2つの問題点が認知されていた。

 1つは新宿(にいじゅく)踏切問題だ。新金線と国道6号線の交通量が多く、新宿踏切付近は特に渋滞する。せっかく貨物列車が減って踏切稼働時間が減ったというのに、旅客列車を運行すればまた渋滞要因になる。もうひとつは多額の費用だ。単線を全区間複線化し、高架区間で踏切を解消する。国鉄在来線と同じ規格の電車を走らせる。事業費は約930億円だ。とうてい葛飾区だけでは負担できない。

新宿(にいじゅく)踏切。信号が連続しており、踏切に関係なく慢性的に渋滞していた(20年12月筆者撮影)

 その後1995年(平成7年)の「葛飾区南北交通検討調査報告書」では「LRT(ライトレール)・単線・6駅」で総事業費約636億円が示された。04年(平成16年)は技術的な課題が整理され「新小岩駅の整備」「金町駅の整備」「車両はJR在来線規格」「中間駅の整備」「踏切12カ所」「列車の運行間隔は20分程度」となっている。ここまでは複線効果案を前提にしている。

 一方、住民有志は「単線・平面」の事業費試算で「約58億円」という数字を03年(平成15年)に葛飾区へ提出していた。内訳は用地補償費8億円、工事費44億円、車両費6億円であった。しかし、葛飾区はこの案を区議会に報告せず、新金線は総額約636億円の長期構想路線と位置付けた。事実上の検討停止。都や国の新たな交通支援制度ができるまで塩漬けにするつもりだったようだ。しかし、前区議など有志が新金線を走る団体列車を企画運行するなど啓蒙活動を続けた。

 15年には住民有志がボランティア活動として「新金線いいね!区民の会」を結成した。新金線を「葛飾江戸川ライトレール」とし、Facebookコミュニティーの運営、毎月第3土曜日に沿線ウォーキング、沿線クリーンアップ活動などのイベントを実施。市民やメディアからの質問に応えられるように調査研究を実施している。

葛飾区が検討している10駅案と7駅案。10駅案は7駅案に3駅を加えた配置。(出典:東京都葛飾区、新金貨物線旅客化の検討資料(2019年3月)

 葛飾区は住民運動に応える形で、17年度予算から調査費用を計上した。葛飾区の公式サイトを見ると、19年3月から毎年3月に調査検討資料を掲載している。19年3月の資料で「検討路線延長7.1キロメートル」「単線」「踏切15カ所」「駅数10駅または7駅」「運行本数は1時間当たり片道4〜6本」「運賃はJR東日本地方交通線相当」「1日当たり36万6000〜38万4000人の利用」とした。新宿駅は踏切のままで、概算事業費はLRTで約250億円、JR在来線電車で約200億円だ。

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