北総鉄道が値下げしても、スカイライナーは“そのまま”のワケ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2022年11月07日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

約束通り北総鉄道は値下げ

 北総鉄道北総線は、東京都葛飾区の京成高砂駅と千葉県印西市の印旛日本医大駅を結ぶ。路線長32.3キロメートルの路線だ。

 もともと千葉ニュータウンと同時にアクセス路線として建設された。現在は千葉ニュータウンからの通勤通学路線だけではなく、都心と成田空港を結ぶ「京成成田スカイアクセス線」の経路でもある。北総鉄道の名前は知らなくても、スカイライナーに乗った人は必ず通っている。

北総鉄道の位置(地理院地図を加工)

 北総鉄道の名前は「日本一運賃が高い鉄道」という不名誉で知られている。運賃が高い理由を簡単にいうと、建設費のローンが残っているから。そして、千葉ニュータウンの発展が遅く、利用者数が目論見を下回ったからだ。1979年の一部区間開業以来、2年後の81年に早くも値上げ。さらに、83年、85年、87年、90年、91年、95年、97年(消費税転嫁)、98年と値上げが続いた。値上げ幅は4.2〜11.0%だ。

 国鉄も末期に毎年のように値上げし、特に76年には50%も値上げした。これもひどかったけれど、国鉄は元の値が安すぎた。北総の場合は元値が高い上に、弱めのパンチを連打すれば痛みは重なる。北総線開業時の初乗り運賃は110円だった。98年は200円。ほぼ倍増だ。腹を据えかねた利用者たちは99年に「運賃値下げを実現する会」を結成した。市民団体だけではなく沿線自治体も問題視し、議会で取り上げられ、また助成金も実施された。

 この活動は「北総線の運賃値下げを実現する会(北実会)」として現在も続いている。2010年に国に対して値上げ認可取り消しを求めて控訴。原告不適格として敗訴となったけれども抗告中のようだ。

 一方、北総鉄道も高額運賃問題は認知しており、ようやく動いた。21年11月に運賃値下げを発表。業績好調による累積損失の解消、地域貢献のためだという。初乗り運賃は9月30日まで210円、現在は190円である。

 この経緯については、筆者も本誌で2回、紹介している。

なぜ北総線の運賃は高いのか “円満解決”の方法を考える(13年4月5日「杉山淳一の時事日想」)

“日本一高い”北総鉄道は値下げできるのか 「やはり難しい」これだけの理由(21年8月6日の本連載)

 筆者は、上の記事では「建設時に一般的ではなかった公設民営の枠組みに変更すべき」と提案し、下の記事では「京成電鉄の第2種鉄道事業廃止」「北総鉄道の第1種鉄道事業廃止」「京成電鉄と北総鉄道の統合」を提案した。

 また、当時参考にした市民運動のサイトが21年11月30日にリニューアルされ、資料などが見やすくなった。当事者の資料が時系列でまとまっており、最も正確で詳しい。(関連リンク

 北総鉄道が21年に値下げを発表した時も、鉄道業界全体はコロナ禍による乗客減で苦境に陥っていた。22年2月にロシアによるウクライナ侵略が始まり、エネルギー価格が高騰。最近はさまざまな物資が値上げされている。経営環境が厳しいなかで、北総鉄道は約束を守った。予定通り10月1日から新運賃となった。開業50周年を迎えた北総鉄道の決意の現れかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.