デフレで花開いた5大回転寿司の直近10年の歩みを振り返りつつ、1皿100円のビジネスモデルが曲がり角に差し掛かっていることを検証してみたい。
07年から22年にかけて、5大回転寿司の売り上げと経常利益がどう変わったか、決算書から分析しよう。左から07年、19年(コロナ前)、21年、22年となる。単位は億円で、売り上げ右にある()が、経常利益またはそれに相当する数値だ(決算月は各社異なる)。
スシロー:591(29)→1991(144)→2408(216)→2813(76)
くら寿司:485(30)→1361(61)→1476(32)→1825(26)
はま寿司:247( - )→1398( - )→1386( - )→1507( - )
かっぱ寿司:609(14)→762(8)→649(△15)→672(△19)
元気寿司:281(15)→420(23)→383(△4)→446(25)
銚子丸(参考):126(8)→193(10)→178(9)→170(17)
スシローについては、07年はあきんどスシロー、19年はスシローグローバルホールディングス、21年にはFOOD&LIFE COMPANIESと社名が変遷している。
くら寿司の22年決算は、決算期が10月なので予想値。
はま寿司は非上場なので、親会社ゼンショーホールディングスの決算書より、ファストフードカテゴリーの売り上げを記す。経常利益は不明だ。
かっぱ寿司はカッパ・クリエイトの決算。△は赤字を示す。
直近15年の売り上げ推移を見てみると、スシローが業界2位から躍進し、5倍近い規模に拡大していることに驚かされる。今年は6月以降、おとり広告などで顧客が減り利益が激減したといっても、経常利益はくら寿司と元気寿司の3倍近くある。コロナ前からの1.4倍の売り上げ増は、寿司居酒屋「杉玉」の成功と、京樽の買収も含まれていて、見事な成長ぶりだ。
スシローは、原価率50%といわれている。厳選した食材を使った提供で、回転寿司ファンを歓喜させてきた。しかし、会社が大きくなる一方で、日本を取り巻く漁業の環境は乱獲などが原因でどんどん悪くなっている。スルメイカもサンマも激減して高級魚になりつつある。価格を上げざるを得ない理由として、日本の漁業不振がある。
スシローの有力な調達先の一つで出資も受けている、羽田市場(東京都大田区)の野本良平社長は「日本の漁協の8割は赤字。浜値が100円の魚がスーパーでは500円で販売される流通を変えないと、乱獲は止まらず未来はない」と警鐘を鳴らしている。
「昔の大手回転寿司は、100円でネタも大きくうまいものを出してくれた。今は値上げしているが、昔ほどでない。堕落した」といったように苦言を呈する人も多いが、そもそも近海で魚がどんどん獲れなくなっている。
それを埋め合わせるために輸入を増やしているが、中国に買い負けてしまう。輸送のための燃料価格も上がっている。日本政府は港湾の整備を怠り、今は大型貨物船が入港できる中国や韓国などの港で詰め替えて、日本に運んでいる状況だ。
魚の乱獲を止め、ハブとなる港湾の大整備をしないと、魚価の高騰は止まらず、昔のスシローのように100円で消費者が狂喜する寿司など、提供できるわけがないのだ。
スシローはおとり広告事件だけではなく、ビール半額キャンペーンがあり得ないほど早期に終了したり、巻物に使っていたマグロの種類が違っていたことが発覚したりと、回転寿司のリーディング企業とは思えぬ失態が続いた。
おとり広告については、キャンペーン期間を完走できるほどの魚介類を確保できず、その一方で消費者の期待を裏切りたくないので、TVなどの広告を止められなかったことが背景にあるとされている。スシローに対する過度な消費者の期待が生んだ事件ともいえないか。
現在のスシローでは、6月以降既存店の売り上げがずっと前年を割り続けて、回転寿司で一人負け状態に転じてしまった反省もあり、キャンペーン商品に対して販売数を明記するようになった。おとり広告の影響は大きかったが、収束に向かっている。
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