リテール大革命

アパレル業界、8割が「売れない商品」 不良在庫になると分かっているのに、なぜ大量に仕入れるのか?在庫の山の対処法(2/3 ページ)

» 2022年11月09日 08時30分 公開
[瀬川直寛ITmedia]

30年間の在庫問題 バブル崩壊前後で変化

 なぜ約30年間も在庫問題を改善できずにいるのでしょうか。それはバブル崩壊前と後の時代変化が関係します。バブル崩壊前は、アパレル業界でも在庫の8〜9割が定価で売れる時代でした。このため、欠品が起きないよう多くの在庫を抱えること自体が正しい戦略だったのです。「作れば作るほど売れる時代」だったと言えるでしょう。

 しかし、バブル崩壊による不況と市場縮小で、在庫の5〜6割しか定価で売れなくなり、現在もその水準が続いています。定価で売れない残り4〜5割の在庫は値引きを余儀なくされ、利益を大きく毀損(きそん)します。バブル崩壊前の在庫量で勝負する戦略が通用しなくなっているのが今の時代なのです。大きな消費行動の変化が起きているにもかかわらず、現在も多くの企業が間違った方法で勝負しているように感じます。

バブル前後で在庫の対処法が変わった(画像:ゲッティイメージズより)

 また、原価率はほとんどの企業で社内ルールとして決められているため、売上目標に社内ルールの原価率を乗じた額が自動的に仕入れ額になります。つまり、市場縮小を無視した形で在庫高を決めてしまっているのです。

 市場規模の縮小から目をそらして、売上増加を前提に在庫を増やしているのは市場の流れに逆らっており、大きな矛盾と言えるでしょう。これが在庫問題を30年近く解決できていない主要因だと筆者は考えています。

 では、不良在庫を持たないために仕入れる量を調整すればいいのでしょうか? もちろん、そんな簡単な話ではありません。

「この商品は売れるの? 売れないの?」

 「最初から仕入れの量を調整する」という考えは市場が縮小しているので一つのやり方だと思います。しかし、少なめに仕入れた商品が大ヒットしたらどうでしょうか? 多大な機会損失につながってしまいます。

 このような機会損失を恐れるあまり、仕入れはどうしても過剰になりがちです。また、売り出してみないとどの商品がヒットするかは分かりませんので、商品の種類も増やしがちです。これも在庫が過剰になる原因です。不良在庫と化してしまっていた80%の商品はこうして生まれるのです。

 さらに、商品の生産スケジュールも不良在庫を作り出す理由の一つです。現在はコストを抑えるために半年〜1年前に海外の工場に新商品の発注をかけるやり方が一般的です。結果的にトレンドから外れた商品が量産されてしまう可能性も十分にあります。

 最近は、AIによって商品の需要予測を立てられるようになりましたが、AIにも得意・不得意があります。在庫や売り上げなど、企業が持っている内部データを参照して需要を予測する技術は向上してきたものの、半年〜1年も先の需要を正確に予測することは困難です。AIの精度は予測し得ない、ライバル店の突発的なセールや感染症などの外的要因に対して極めて脆弱なことが理由です。

 しかし、「半年〜1年先の長期の需要予測が当たらないなら、アパレルビジネスは博打なのか?」というと、そういうわけでもありません。

 実はAIは、売り始める前の商品企画段階での長期の需要予測よりも、売り始めてからの実売データを使った短期の需要予測の方が得意です。

 ですから計画と実績の乖離を短期の需要予測で予見することで、実は売れるはずの商品を見つけて機会を逃さず販売するという販売計画の修正ができます。逆に、予測に反して売れそうにない商品は早めに値下げして在庫リスクを回避するといった販売計画の修正もできるようになるのです。

 アパレル事業は季節商品がほとんどですので販売期間は3カ月ほどしかありません。その中でも定価で売れると言われる期間は8週間ほどです。この短い期間に売れる商品を半年〜1年も前に予測するのがどれほど難しいことかは感覚的にも理解できるのではないでしょうか。

 つまり、アパレル事業の収益ポイントは3カ月という短い販売期間内での販売計画の修正力にあります。計画と実績の乖離を予見し、タイムリーに販売計画を修正することで、できるだけ利益を失わずに(余計な値引きを抑えて)在庫消化を実現する。これがアパレル事業の収益性を改善する際のポイントになります。

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