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アパレル業界、8割が「売れない商品」 不良在庫になると分かっているのに、なぜ大量に仕入れるのか?在庫の山の対処法(3/3 ページ)

» 2022年11月09日 08時30分 公開
[瀬川直寛ITmedia]
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80%の不良在庫を売れる商品にするには?

 AIを用いた販売計画の修正は、全在庫を「質」に応じて4つに分類することで実現できます。

  • 優:今なら値引きをしなくても売れそうな商品
  • 良:今少しだけ値引きをすれば在庫消化が加速して、利益を毀損(きそん)せずに済む商品
  • 可:比較的早く売り切れるが、この先売上や利益に貢献しないので手を打つ必要がない商品
  • 不可:このまま手を打たないとますます売れなくなる商品

 在庫の質は「売れる」「売れない」の2択ではなく、「まあまあ売れる」というグラデーションが存在します。そして、その「まあまあ売れる」に分類される「可」「良」の一部が不良在庫予備軍となります。では、不必要な値引きをせずに適切に在庫を消化するためにはどうすればいいか、適切な打ち手を下記の図にまとめました。

在庫は4つの「質」に分類できる(画像:筆者作成)

 在庫の質にグラデーションがあることを加味せず、売れていない在庫を一律で「20%オフ」のように値引きをすると、本来値引きする必要がない商品まで過剰に値引きしすぎることになり、得られたはずの利益を失います。

 アパレル業界がこのような弊害に気付きつつも、今ある在庫を利益に変える在庫分析に苦戦しているのはなぜでしょうか?

 多くの場合、売り場での対応や今後の商品計画などに追われ、数千から数万ある全ての商品を分析する時間が確保できていないことが原因です。3000個の商品のうち1000個の商品を人力で分析できたとしても、残りの2000個の商品の在庫リスクは日々変化しており、ごく一部を分析しても根本的な解決にはつながりません。

 なおかつ、在庫の質はグラデーション状であり、4段階に分類するという明確な視点が欠けていることも原因になっていると言えるでしょう。

 商品数が非常に多くて人力で分析し切れない場合、ITツールを有効利用するのも有力な選択肢の一つになります。そして、無数にある在庫を分析する際には、全在庫を「質」に応じて4段階に分類するという明確な視点を持つことで、今ある在庫を利益に変える在庫分析がしやすくなるでしょう。

その値引きは本当に必要か?

 当社のお客様の中で、年間30億円の値引きをしている企業がありました。もし1%でも値引きを抑制できたら、年間で粗利が3000万円増えます。在庫の質の可視化は、企業の財務改善に大きな影響を与えることが分かると思います。

 原価を抑えるために、売れるはずもない量を大量生産して「在庫の物量」で勝負する時代は既に終わりました。今は「在庫の効率」で勝負する時代です。在庫効率は、抱えた在庫をできるだけ値引きせずに販売し粗利を最大化することで上がります。

 「在庫の物量」が売上の機会損失を減らす戦いだとすると、「在庫の効率」は粗利の機会損失を減らす戦いだということです。日本のように人口減少と高齢化が加速している縮小市場においては、在庫の物量で勝負する売上重視のビジネスでは超大手企業を除いて価格競争の波に飲まれるため、生き残りが困難です。

 縮小市場におけるセオリーは在庫の効率で勝負する粗利重視のビジネスです。

 また売上重視の弊害とされる大量生産・大量廃棄は、二酸化炭素排出や資源の枯渇といった環境問題や、児童労働や強制労働といった人権問題も課題視されています。

 そういう意味においても、アパレル業界が目指すべき経営スタイルは在庫の効率で勝負する粗利経営だと筆者は考えています。

著者紹介:瀬川直寛(せがわなおひろ)

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フルカイテン株式会社 代表取締役。慶應義塾大学理工学部を卒業後、外資系IT企業等を経てベビー服等のECを起業。在庫問題が原因で直面した3度の倒産危機を乗り越える過程で外的要因や予測不能な変化に強い小売経営モデルを創出。それを『FULL KAITEN』として2017年にクラウド事業化。現在はEC事業を売却しFULL KAITENに経営資源を集中している。


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