冒頭の問いかけに戻ろう。今回の戦争が「新しい」かどうかは議論が分かれるが、少なくともクラウゼヴィッツは「戦争には時代を反映したそれぞれ独特な特徴がある」という主旨のことを言っている。
これを援用して考えれば、今回の戦争は「古くもなく新しくもない、2022年という時代の独特の状況の中で行われた戦争であった」ということが言えるかもしれない。
ただ、ここで参考になるのは、多くの戦略論や戦争研究の専門家たちの間で語られてきた「戦争」についてのイメージだ。日本では正面切って論じられることは少ないものの、彼らの言説に多いのが「戦争とは、人間が社会的に行う営みである」ということだ。
言い換えれば、戦争は人間が行う「社会活動」であることから、それが行われる時代背景や文化、そしてテクノロジーの影響を、当然ながら色濃く受けるはずなのだ。
では2022年の現代、とりわけ欧州の比較的近代化が進んだ地域で戦争が行われるとどうなるかというと、IT技術の恩恵を受けたインターネットやSNSが大活躍するのは当然であるということになる。
英ロンドン大学(LSE)で長年に渡って戦略論や戦争について論じてきたクリストファー・コーカー教授は、拙訳の新刊『戦争はなくせるか?』の中で「戦争は常に進化し続けるものである」という大胆な指摘を行っている。
そして先程の「戦争が社会的な営みである」という指摘が正しければ、社会や時代の変化とともに、戦争そのものも進化し続けることになるわけで、それが「新しいのか」「古いのか」という問いかけは意味をなさない可能性も考えられるわけだ。
ウクライナで行われている戦争で、われわれはいわば「DX戦争」の姿を見せられている。
これを日本に当てはめて考えた場合、今後の台湾有事や朝鮮半島有事などの際には、われわれの社会の力量が根本的に試される、と考えられるのではないだろうか。そして、上手く対応するためには、日本も社会的に進化し、レジリエンス(強靭性)を身につけておかなければならない。
1972年9月5日、神奈川県横浜市生まれ。国際地政学研究所上席研究員。
2002年ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)地理・哲学科卒業。11年レディング大学(英国)大学院戦略研究学科博士課程修了、博士(戦略学)。地政学や戦略学、国際関係などが専門。レディング大院では戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(米レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事した。現在は政府や企業などで地政学や戦略論を教える他、戦略学系書籍の翻訳などを手掛ける。
著書に『地政学:アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『世界を変えたいのなら一度武器を捨ててしまおう』(フォレスト出版)、監修書に『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)、訳書にクライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)、『ルトワックの“クーデター入門”』(芙蓉書房出版)など。
ニコニコ動画やYouTubeで地政学や国際情勢に関するニュース番組「地政学者・奥山真司の『アメリカ通信』」(毎週火曜日午後8時30分〜)を配信中。
Twitter:@masatheman
ブログ:「地政学を英国で学んだ」
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