リテール大革命

【解説】中国発ファッションEC「SHEIN」は、何がすごいのか石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(3/3 ページ)

» 2022年11月25日 07時00分 公開
[石角友愛ITmedia]
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不買運動が勃発…… SHEINが抱える課題

 しかし、SHEINの米国進出に課題がないわけではありません。実は、SHEINは2022年6月にサンフランシスコにたった2日間だけポップアップストア(仮説店舗)をオープンしています。その時に、二次流通を促す再販プラットフォームthredUPが「循環経済のアンチテーゼ」であるSHEINのビジネスモデルに対して不買運動を呼びかけ、大きな話題となりました。

 ブルームバーグも、2024年米国でのIPOを控えるSHEINに対して、「環境、社会、ガバナンスの問題が投資家にとってこれまで以上に重要になるにつれ、小売業者の使い捨てファッションの促進は、SHEIN社の継続的な成功に対する最大の脅威へと発展するかもしれない」と報じています。

 環境問題への指摘は、SHEINを支持する米国の若い層でも大きな懸念を集めており、激安ではやりの商品を手に入れたいという欲求と比例するように、サステナブルな商品への需要も高まっています。

環境問題への指摘は、SHEINユーザーの間でも大きな懸念に(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 ウォールストリート・ジャーナルの記事によると、パンデミック時にSHEINから激安のファストファッションを購入し始めたあるファッションスクールの学生であるグランドさんは、中国から届いた服の個包装を見て、ゴミを捨てることに罪悪感を覚えたと言います。そこで彼女は、余った包装の一部を使ってトートバッグを縫い、TikTokに投稿。すぐに何百万ものビューとポジティブなコメントが付きました。グランドさんは最終的に、クラウドソーシングで集めたSHEINのビニール袋で、ランウェイコレクション全体を制作し注目されました。

 環境問題への配慮はSHEIN以外のファストファッション企業も直面している問題です。同時に、透明性の高い労働力、エシカルなサプライチェーンマネジメントができているかどうかも今後問題になってくると考えられています。

 近年悪化し続ける米中間の地政学リスクも課題に挙げられています。TikTokをはじめとした中国発テック企業の米国内における規制強化が議論される中、SHEINの米国での立場は安定的ではありません。

 例えば、ブルームバーグによると、ファッションの世界では、中国の綿花の約85%を生産し、強制労働疑惑の代名詞となっている新疆ウイグル自治区がその起源であることも問題になっています。SHEINが使っている工場はこの地域にはないということですが、同社が使用するサプライヤーが膨大な数に上るため、把握は難しいと指摘しています。

著者区権侵害や商標侵害の疑いも

 著作権の問題も今後露呈する可能性があります。ウォールストリート・ジャーナルによると、同社が他人のデザインで利益を得ていると主張する訴訟の数が近年増えているといいます。

SHEINに対する訴訟の数が近年増えている(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 公的な記録によると、SHEIN社または香港にある親会社のZoetop Businessは、過去3年間に米国で商標または著作権の侵害を主張する少なくとも50件の連邦訴訟の被告として名前が挙がっているとのことで、著作権侵害や商標侵害を訴える原告には、自宅スタジオで活動する個人から、ラルフローレン社やサングラスメーカーのオークリー社を含む大手小売業者まで含まれています。

 SHEINは3000社以上のサプライヤーネットワークを持つことが強みでもありますが、このことで逆に各サプライヤーに細かいチェックが行き届かない可能性もあり、広範囲のサプライヤーネットワークを持ちサードパーティーに洋服のデザインを任せるビジネスモデルのリスクが露呈しているとも言えます。

 このように、SHEINの急成長の裏にはサプライヤーネットワークの拡充とそれに伴うデータの活用があることが分かっています。リアルタイムで消費者の需要を把握し、生産計画を柔軟に変え、サイト上の商品の掲載を変更するダイナミックさは、ECサイトならではの強みであり、国際展開しやすく拡張性の高いビジネスモデルであると言えるでしょう。

 同時に、近年のSDGsやESGの課題、著作権の問題や米中間の政治的問題などが複雑に関係してきており、米国でのIPOに向けたSHEINのガバナンス強化や透明性強化の取り組みに注目が集まります。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITメディア「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
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