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デンソーが役員報酬にESG指標を反映  “信賞必罰”の制度に迫る激動する自動車業界(1/3 ページ)

» 2022年11月25日 10時08分 公開
[中西享ITmedia]

 自動車部品大手のデンソー(愛知県刈谷市)が、サステナビリティ経営を通じた企業価値の向上を狙い、役員報酬にESG(環境・社会・ガバナンス)評価を反映する制度を2022年度から導入した。

photo デンソーが、サステナビリティ経営を通じた企業価値の向上を狙い、役員報酬にESG評価を反映する制度を導入した(以下クレジットのない写真はデンソー提供)

 CO2排出量の削減、ダイバーシティー&インクルージョン(外国人・女性の登用)、職場安全など、サステナビリティ経営において重点的に取り組むべきと自社で定める優先課題を対象に、その年度の目標達成度合いを評価し、役員報酬に反映させる。

 役員報酬にこうした制度を取り入れる動きは米国や欧州を中心に広がってきている。

 デロイトトーマツグループが公表した調査結果を見ると、日本企業の上場主要100社の52%が21年度の役員報酬に、ESGの要素を反映させている。20年度の24%から倍以上に増えた。ESGの取り組みを投資家が厳しく見るようになった中で、企業もESGの成果を役員報酬に反映させる動きが広がったのだ。

photo 報酬にESGを連動している日本企業の割合(デロイトトーマツグループのプレスより)
photo 業績連動報酬にESG要素を反映している企業の割合(デロイトトーマツグループのプレスより)

 デンソーの担当者に制度導入の狙いと詳細を聞いた。

photo デンソーの遠山大輔経営戦略室長(左)と林克憲秘書室長

社会的要請に応える

 サステナビリティ経営戦略やIRを担当している遠山大輔経営戦略室長はこう切り出した。

 「従来は、一部の機能部門が社会課題解決への貢献に取り組むのがCSR(企業の社会的責任)活動の一般的な考え方でした。しかし、15年に国連サミットでSDGs(持続的開発目標)が採択されてから、多様なステークホルダーがサステナビリティに注目するようになり、企業には事業を通じた社会課題の解決が求められる潮流へと変わっていきました。

 当社でも19年にサステナビリティ方針を策定し、従来のCSR視点にとどまらず、本業である事業活動を通じて社会課題の解決に取り組むことをデンソーのサステナビリティ経営と再定義し、再出発を図りました。

 SDGsというなじみやすいキーワードも活用しながら、従業員に自分事として捉えてもらうための施策も展開し、社内浸透も進んでいます」

photo サステナビリティ経営戦略やIRを担当している遠山大輔経営戦略室長

 役員報酬についても利益だけに連動する決め方を変えたのだ。この理由について林克憲秘書室長は、利益以外の経営の要素についても重要視すべきと考えたという。

 「役員報酬はこれまで、営業利益一本で決められてきました。これは将来への投資などを控えることによって、短期的に利益を引き上げることが可能ともいえます。しかし、これからの激動する自動車業界においては、単年の利益のみならず、中長期的な成長に向けた取り組みが不可欠です」

 非財務指標において、中長期的に企業価値を高めることにも常に気を配りながら日々の執行に取り組んでもらうことが大事なのだという。

 「短期的にはコスト増になったとしても、中長期視点で見た時に成長につながるさまざまな評価項目を加えることにしました。役員が先頭に立ち、多数のステークホルダーの要請に幅広く応えてアクションを起こしていかないと、世の中から認められなくなり、結果として持続的な成長も望めないことになります。

 そうした外部からの社会的な要請に応えるだけでなく、本業のモノづくりで、より良い製品を生み出す、そのためにより良い職場を作るなど、システマチックな施策がデンソーの中長期的な成長につながるとの狙いからサステナビリティの項目を入れました」

photo 林克憲秘書室長

 役員報酬に反映するサステナビリティの評価項目には、環境面ではCO2排出量の削減、電動化製品の普及などがある。一方、企業基盤に関する評価項目では女性管理職の拡充、職場の活力アップにつながるワークエンゲイジメント(職場アンケート)の肯定回答率の向上なども入れた。

 役員だけでなく、従業員にも年初に設定する個人目標とSDGsの関係性をひもづける仕組みも導入している。国内だけでなく、海外でもこの動きを浸透させようと、各地域にサステナビリティ活動を推進するリーダーを設置して、グローバル展開を進めている。

役員報酬への具体的な反映方法

 役員報酬への反映を具体的に見ていく。

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