日本企業は年功賃金だから賃金が低いのだとする言説があります。しかし実際は、高賃金企業イコール年功賃金企業というべき傾向があります。
図4は企業規模別に賃金を比べたものです。学歴による偏りを排除するために大卒者に限定しました。企業規模が大きくなるほど賃金水準が高くなっていますが、その格差は1年ごとの賃金の上がり方の大小から生じています。
図5は最も賃金が高い産業である電気業と、最も賃金が低い産業である飲食店を比べたものです。企業規模と学歴による偏りを排除するために、従業員1000人以上の企業と大卒者に限定しました。この比較でもやはり賃金格差は1年ごとの賃金の上がり方から生じています。
では高賃金企業は年功序列主義なのかというと、そうではないはずです。高賃金企業ほど年功賃金であるのは、賃金制度が持つ不可避の性質によると思われます。
賃金制度とは、いいかえれば定期昇給制度のことです。例えば「成績S=5%昇給、A=4%昇給、……D=1%昇給」(もちろんこれらの数字は企業によって異なります)というように成績と昇給額を対応させる、企業固有の仕組みで賃金を決めます。
このとき、例えば「CとDは昇給ではなく降給」というように、賃金を下げる仕組みは通常設けません。なぜなら一度決めた賃金を下げると、労働意欲はそれ以上に下がってしまい、企業にとってかえって効率が悪くなるからです。
結局、賃金制度は一方的な昇給制度にならざるをえず、高賃金企業とそうでない企業の差は、1年ごとの昇給幅の差にならざるをえません。
以上でみてきたことから示唆されるのは次の2点です。
まず、高賃金企業は必ずしも従業員を酷使するような企業ではないということです。効率性賃金や高業績人事制度、教育訓練、労働装備率、高生産性産業などの要素は、酷薄とは関係ありません。
もちろん、高賃金企業が絶対に酷薄企業でないわけではありません。酷使されることを避けたいならば、高賃金が経営戦略によって生み出されているのか、それとも従業員を酷使することによって生み出されているのかは、慎重に見極める必要があります。
第2に、「○○社が賃金を一律○○%引き上げた」というような報道に安易に飛びつくべきではありません。賃金カーブ(図4と5のようなもの)は傾きこそが重要であって、一時的に全体を数%底上げしたくらいで、そうでない会社から高賃金会社に転換することはありません。
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