事務所側が芸名使用禁止条項を定めてきた背景には、当該芸名が広まり、有名になったのは、事務所の長年にわたるサポートによるところもあるという考えがある。そのため、芸名の利用について、事務所のコントロール化におかれてしかるべき(育成のために投じた資本を回収できるようにするべき)という論理だ。これ自体は、あくまでまっとうな意見であると考えられる。
一方で、芸名(パブリシティー権)は、タレント個人の人格に基づいた権利である。そのため、事務所を脱退後、永久にその利用に制限がかけられるような条項は、公序良俗に反して無効とするべきではないかと議論されてきた。特に「芸名=本名」であるタレントに関しては、事務所脱退後に本名での活動が制約されるため、不利益は大きい。
今回の判決においては、このような議論を踏まえて、タレント側に寄り添った判断がなされたと評価してよいだろう。注目すべきは、「愛内里菜」さんは本名とは異なる「芸名」である点だ。今後、「本名=芸名」のタレントにおいては、なおさら芸名使用禁止を無効とする判断が出やすくなるのではないか、とも考えられるのである。その意味でも、今回の判決には大きなインパクトがあるといえよう。
当該判決については、事務所サイドから控訴の方針が示されている。しかし、世間的にもインパクトのある判決が出た以上、今後のマネジメント契約実務においては、芸名使用禁止条項の是非が問われることになるだろう。仮に無効な条項を含む契約を締結させていたということになれば、事務所サイドとしてもレピュテーションに関わる問題であるため、慎重な対応とならざるを得ない。例えば、既存契約の見直しやフォーマットの改訂において、使用禁止期間を永続的なものから、一定の期間に限定する――といった対応がなされることになるのではないか。
昨今、独立するタレントも増えている中、そもそもの事務所の存在意義が問われている。いわゆる恋愛禁止条項の当否も含め、タレントに寄り添った、時代に即した契約条項へのアップデートの必要性は言うまでもないだろう。
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