「芸名禁止」はNGで「恋愛禁止」はOK? 愛内里菜さん裁判から考える、契約条項に潜むリスクその契約、大丈夫? 弁護士が解説(4/4 ページ)

» 2022年12月14日 05時00分 公開
[高橋駿ITmedia]
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 もっとも、異性との交際という「自己決定権」や「幸福追求の自由」を制約することが、本当に不合理な条項ではないのかというところは議論の余地があるだろう。

 例えば、11月30日には、堀越学園の男女交際を禁じた校則を巡り、校則に基づいて自主退学を勧告した学園側に賠償を命じる判決が言い渡されている(ただし、男女交際を禁止する校則そのものについては「生徒を学業などに専念させるためのものとして合理的」と指摘し有効と判断している)。一個人としての恋愛自体を禁止する条項やルールの有効性についてや、これに違反した時の制裁の可否については、今後も議論されることになるだろう。

契約を「無効」としないために

 法は、契約自由の原則という枠組みの中で、一方が過度に不利な契約条項を無効とする仕組みを取ることで、不合理な内容の契約が成立しないように歯止めをかけている。

 上記では紹介しきれなかったものの、倫理上問題のある契約(愛人契約や奴隷契約)についても、公序良俗に反して無効とされているし、消費者契約法などの定める強行法規(当事者の意思に関係なく、強制的に適用されるものは無効とする規定)に反する契約条項についても、無効となる。例えば、直近(2022年12月12日)では最高裁第1小法廷にて、家賃を2カ月以上滞納するなどの要件を満たせば、建物の明け渡しがあったと見なす条項(いわゆる「追い出し条項」)について、消費者契約法に基づいて違法との判断がなされている。

 まとめると、明らかに一方が有利または不利な契約条項については、契約書にサインがあったとしても、法律上無効になる可能性があるということである。従って、有効な契約を締結したいのであれば、公平な内容の契約締結を心掛ける必要がある。

 実際のところ、公序良俗に反する無効な条項などが既存契約や規約に潜んでいることはよくある。加えて、例えば各種法改正に対応できていない結果、有効性に疑義が生じている条項なども散見されるところである。このような契約条項が後から問題になった場合、レピュテーションリスクや契約解釈上問題が生じ、紛争の火種となりかねない。企業としては、あらためて無効になってしまうような規約や契約の定めがないか、見直しを行うことを推奨したい。

著者プロフィール・高橋 駿(たかはし しゅん)

弁護士、シティユーワ法律事務所所属。

2016年、早稲田大学法学部卒業。2018年、早稲田大学法科大学院卒業。

2019年、弁護士登録(第二東京弁護士会)、シティユーワ法律事務所入所。

企業法務、金融業務の他、スポーツ法務に注力している。

スポーツ法学会、第二東京弁護士会スポーツ法政策研究会に所属。MSBS第1期。


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