東京商工リサーチが9月に発表した「大手外食チェーン値上げ・価格改定」調査によれば、「寿司(回転寿司)店でも、加速する円安により輸入魚介類の価格上昇や品薄を理由にした値上げが行われている」とした上で、「燃料が最需要期の冬場を迎え、燃料価格の二段高も懸念され、収益悪化に抵抗するためにさらなる値上げを呼び込む可能性も残している」点を指摘。11月に発表した同調査では、22年に値上げした企業は全体の67.2%で、中でも、回転寿司を中心とした1品当たりの単価が安い業態で複数回の値上げが確認できたとしている。
くら寿司では10月1日から価格改定によって、1皿100円(税別)の商品が消滅した。税込220円の皿を税込165円に値下げする代わりに、現行価格で税込110円の皿は税込115円へと値上げすることとなった(一部店舗を除く)。同社の月次報告書を見ると、10月、11月ともに既存店の客数が前年割れとなっており、値上げは少なからず影響しているとみられる。
10月に値上げしたスシローは、度重なる不祥事もあろうが、やはり10月、11月ともに既存店客数が前年割れ。いずれも前年同月比で8割を切るなど、影響はくら寿司よりも深刻だ。
飲食業界にとって値上げは大きなショックを伴うことが多い。値上げで客足を一気に減らした例で有名なのが、17年10月に値上げを断行した「鳥貴族」のケースだろう。
同社は人件費の高騰などを受けて、当時28年ぶりとなる値上げに踏み切り、全品280円(税別)均一の価格帯を298円(同前)まで引き上げた。値上げ以降、既存直営店において11月を除く全ての月で客数が前年割れ。売上高も、忘年会シーズンの11〜12月を除く全ての月で前年割れとなり、18年7月期の純利益を下方修正することを余儀なくされた。その後も復調を果たせず、翌19年7月期は上場以来初めての最終赤字へと転落している。
飲食業界は消費者にとって、特に「他の選択肢」が多い業界である。例えば、水道料金が値上がりしても、お風呂に入ることを控えたり、お手洗いの使用頻度を下げたりということは難しく、また他の水道事業者に乗り換えることも難しいだろう。このような状況を、「価格弾力性が低い」といい、値上げが業績改善に効果的となる。
それとは対照的に、飲食店は値上げによって需要が減少しやすい業界だ。消費者はくら寿司やスシローが値上げしても、値上げが緩やかなかっぱ寿司やはま寿司、安価を売りにする地元チェーンへと簡単に乗り換えられる。さらに、寿司だけでなく、中華料理店やファミリーレストランのような他の料理カテゴリーとも客の取り合いとなってしまうのが飲食店の悩ましいところだ。
大手回転寿司チェーンが足並みをそろえて値上げに踏み切っても、値上げをしないチェーンや、それよりも手頃な価格帯の他料理チェーンに客足が流れてしまう可能性に注意したい。「携帯料金」のように主要企業の料金を横ならびにすることで業界全体で見た客足のバランスを維持するような戦略は、飲食業界では成り立ちにくいのだ。
とはいえ、「はい、そうですか」といつまでたっても値上げをしないままでは、なかなか業界が成長しないのも事実。そこで最後に、値上げがすんなりと受け入れられた例として、宅配業界を取り上げたい。今となると宅配業界の値上げは「仕方ない」として受け入れられたように見える。
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