それでも乗り心地は硬めであることは、このクルマの特性上ある程度は避けられない。というのもボールジョイント(走行時の安定性を高める部品のひとつ)の構造上、ダンパーの軸方向しか衝撃を吸収できないので、それ以外の方向ではコツコツとした感触を伝えてくる。さらに距離が進めば、よりこなれてくるかもしれないが、基本的な特性は変わらないだろう。
それにこの感触は、このクルマの個性とも言える部分だ。大きさ重さと充実した装備で、これだけ素直で俊敏な動きを見せるために必要な仕様なのだ。
そしてDEA(ドライバー異常時対応システム)。これは、ドライバーの体調急変を検知して安全にクルマを停止させて救援を要請してくれるもので、現時点で唯一無二の装備だ。ペダル踏み間違い事故を抑制する仕組みは幅広い車種に搭載されているが、ドライバーの健康まで考えた装備は、まだまだ充実しているクルマはほとんどない。
内燃機関がどうのとか、SUVかセダンかスポーツカーかという領域は、このクルマは超越してしまった感がある。トヨタはEVもハイブリッドもECVも内燃機関(水素エンジンも含む)も開発を続ける全方位戦略を採っているが、ある意味このCX-60はマツダにとって全方位をカバーするクルマとも言えるのではないだろうか。乗用車に求められるすべての要素を詰め込んだように見えるのだ。
その一方で、マツダは万人受けする必要などないことも分かっている。だからミニバンを諦め、SUVに力を入れる覚悟を決めたのだ。そしてSUVであってもハンドリングに妥協しないことで、これまでにないクルマをつくり上げた。「これがマツダの生きる道」なのであろう。
この先、EVも社会に必要な数だけつくられるだろう。しかしエンジンを求める層、家族がいてもクルマの走りを楽しみたい層は一定数維持されていく。クルマの運転を楽しむユーザーに刺さるクルマをつくりを続けることは、これから乗用車メーカーには必須の条件だろう。トヨタ、スバルと協業しながらも独自性を忘れない。これは他の業種でも今後、目指す方向性として参考になるのではないだろうか。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。
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