「シン・鉄道」のカギを握る会社はどこか 技術がどんどん“加速”する杉山淳一の週刊鉄道経済(3/6 ページ)

» 2023年01月02日 10時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

鉄道の新技術導入が進む年に

 22年は鉄道に関する新技術、新サービスがいくつか発表された。直ちに実用化されるわけではないけれど、23年にどれほど進ちょくするか興味深い。

・水素ハイブリッド車両「EV-E991系」(JR東日本)

 JR東日本がCO2削減の取り組みの一つとして開発した燃料電池電車。屋根上に水素タンクを搭載し、床下にある燃料電池装置に水素を送って発電する。蓄電池も搭載し、回生ブレーキで発電した電力を貯える。燃料電池と蓄電池によるハイブリッドである。

 19年に製作が発表され、21年に完成。地上設備を整えて、22年から南武線と鶴見線で走行試験を実施している。試験が主に夜間のようで目撃情報が少ない。実用化目標は30年度だ。

 試作車両は首都圏の電車と同じサイズの2両編成で、乗降扉は片側3カ所。座席や吊り手、車椅子スペースなどもしつらえており、いつでも営業可能な内装だ。ただし、現在の南武線電車の乗降扉は片側4カ所で、可動式ホーム柵も4扉用だ。営業用車両は片側4扉になるはずで、それまでにもう1本、営業用試作車両がつくられると思う。

水素ハイブリッド車両「EV-E991系」HYBARI(HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation)の仕組み(出典:水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験車両の開発

・可動式第三軌条用集電装置(近畿日本鉄道)

 電車の集電装置は2種類ある。1つは線路上に電線(架線)を張り、車両側のパンタグラフで電気を取り込む。もう1つは、線路脇に電気を通すためのレール(第三軌条)を設置し、車両の台車から張り出した集電装置を接触させて電気を取り込む。第三軌条方式は地下鉄や新交通システムに採用例が多い。トンネル断面や高架線路を小型化でき、建設費を安くできるからだ。

 第三軌条用集電装置は固定されておりパンタグラフのように畳んだり格納したりしない。強度とコストの結果である。しかし、近鉄は集電装置を上方へ跳ね上げる装置を開発し、5月に試作品の完成を発表した。21年8月に特許情報が公開され、20年1月に特許出願済みだったと明らかになった。

 第三軌条用集電装置は実用化されているけれども、近鉄の特許は台車から飛び出した集電装置をいったん引き込んで上方へ上げる。ここが特許部分だ。なぜこんな面倒な仕組みが必要かというと、この集電装置を従来の架線集電式の電車に取り付ければ、架線区間と第三軌条区間の直通運転が可能になるからだ。架線集電区間は線路脇に構造物があり、そこに第三軌条集電装置が当たってしまう。だから跳ね上げ収納にこだわった。

 近鉄はこの仕組みを使って、架線区間の近鉄奈良線と第三軌条区間のけいはんな線を直通し、さらにけいはんな線が相互直通運転する大阪メトロ中央線に乗り入れたい。大阪メトロ中央線は大阪万博に向けて夢洲へ延伸する。つまり近鉄は、奈良と夢洲を乗り換えなしで結ぶ列車をつくりたい。大阪万博は2年後の25年。そこに間に合わせるために、今年中に試作車両が誕生するかもしれない。

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