「シン・鉄道」のカギを握る会社はどこか 技術がどんどん“加速”する杉山淳一の週刊鉄道経済(5/6 ページ)

» 2023年01月02日 10時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

無線式列車制御システムの導入

 22年12月、東京メトロとJR東日本は「無線式列車制御システム」の導入促進に向けて協力すると発表した。

 無線式列車制御システムは、レールを使った閉塞式列車検知システムに代わり、列車が持つ位置情報と無線を使って列車の位置を把握する仕組みだ。地上の信号設備を減らせるため、大幅なコストダウンと、列車の運行間隔調整によって増発も可能になる。

 列車の正面衝突や追突を防ぐ仕組みとして、長らく「閉塞区間」が用いられてきた。単線の場合はすれ違い駅同士の間が1閉塞区間で、そこには必ず1つの列車だけが存在できる。閉塞区間の両側の入り口は赤信号になり、ほかの列車は進入できない。複線は片側一方通行の線路をいくつかに区切る。ひとつひとつの区間の距離は列車の長さや制動距離などによって決まる。

 閉塞区間方式は区間ごとに信号機や車両検知装置が必要になる。また、1閉塞1列車が原則で、どんなに低速で走っていても隣の区間に入れない。列車の運行間隔が制限されてしまう。クルマの運転で、交差点から交差点まで1台のクルマしか入れないという状況に似ている。安全確保のためとはいえ、列車運行の効率は悪い。

 クルマの場合、ドライバーが目視で適切な車間距離をとっていれば、交差点と交差点の間に複数のクルマが走行可能だ。これと同じ機能を列車にも持たせたい。そこで、クルマのドライバーの代わりに、無線通信と制御コンピュータを使う。列車が検知した位置情報や速度を列車制御コンピュータに送り、列車制御コンピュータは列車の速度と適切な車間距離を計算し、各列車に進行可能な速度を示す。制限速度を超過すれば自動的にブレーキがかかり、適切な車間距離を維持する。

04.jpgJR東日本の無線式列車制御システム「ATACS(Advanced Train Administration and Communications System)」(出典:無線による列車制御システム「ATACS」の使用開始について

 JR東日本は11年10月から仙石線で無線式列車制御システム「ATACS」を導入した。17年には埼京線で使用開始。今後、採用路線を増やしていく。東京メトロは18年に丸ノ内線の中野坂上〜方南町の仮設環境で試験運転を実施、22年は丸ノ内線四ツ谷〜荻窪間で本番設備による走行試験を実施した。24年に丸ノ内線全区間で導入予定だ。閉塞区間の縛りのない運行形態で、列車の運行間隔がもっと短くなるだろう。

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