このように物価上昇に合わせて最低賃金を引き上げていくシステムが続々と導入されているのは、なにも先進国に限った話ではない。
例えば、トルコだ。ジェトロ(日本貿易振興機構)のビジネス短信によれば、トルコの物価上昇は、22年11月時点で消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比84.4%。国内生産者物価指数(D-PPI)上昇率はなんと136.0%と高騰している。そこでトルコ政府はどうしたかというと、最低賃金を引き上げている。
これまでも21年12月に前年比50.5%増、22年6月に同年上半期比29.3%増と継続して引き上げているところに加えて、23年1月さらに引き上げる、と労働社会保障省が発表している。22年12月までの最低賃金と比べて54.7%増だ。
世界はこのように政府が段階的に最低賃金を引き上げていく。国民の生活状況や購買力低下などを鑑みて、1年の中で2〜3回と引き上げていくことも珍しくない。
しかし、ご存じのように、日本では最低賃金の引き上げを主張すると、「小泉・竹中路線の新自由主義者め!」とか「弱者切り捨てか」などと、特に保守層から猛烈なバッシングにあう。物価上昇の中で常軌を逸した低賃金で働かされている労働者のほうがよほど「弱者」だと思うのだが、そういう話はこの手の人たちにはあまり通じない。
「労働者を雇ってあげている中小企業をいじめることは、まわりまわって労働者をいじめていることになる。だから、最低賃金はなるべく引き上げないことが、労働者のためになるのだ」という奇妙な日本式ロジックがまかり通っているのだ。
このロジックの根拠となっているのは、「最低賃金の引き上げなんて格差を生む愚かなことはやめて、日本政府がお札をじゃんじゃん刷って、金利をゼロにして、中小企業に補助金をバラまけばすべて解決だ」という世界的に見ると、かなりユニークな経済観だ。
中小企業の多くは、立派な技術やサービスもあるが財政的に弱いので、原材料などが高騰しても売上減少を恐れて、価格への転嫁ができないので、賃金も据え置きにするしかない。だったら、弱い財政を税金で下支えしてやれば少し余裕ができるわけだから、価格への転嫁もできて賃上げにも踏み切れるのではないか――というわけだ。
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