このように露骨に「金持ち」を相手にしたフロアが増えてくると、従来の百貨店に入っていたようなテナントはどこへ消えたのかと思うだろうが、それは2〜4階にぎゅっと集められている。1階に関しても、化粧品や高級ブランドは消えて、愛媛の観光情報や、松山を代表する老舗お土産店「十五万石 YUI」が入ったほか、「坊ちゃんフードホール」という巨大なフードコートができた。
この松山三越のケースからも分かるように、これからの時代の百貨店は、上層階に高級ホテルや会員制エステで金持ちを呼び寄せて、下のフロアでもお金を落としてもらう、というのが収益の柱となっていくのだ。
もちろん、これまでの百貨店も外商フロアなどで、富裕層を取り込んでいたわけだが、その一方で庶民向けのフロアやサービスも充実させて結果、どっちつかずの「中途半端な施設」になってしまっていた。だからこそ今後は「富裕層」に完全に特化して、庶民向けのフロアは「おまけ」程度にしていく必要があるのだ。
下層階のフードコートや食料品売り場という「庶民」向けの商売がいくら大盛況でも、そこで得られる利益など「安いニッポン」ではたかがしれている。逆に言えば、この収益の低いところを存続させていくためにも、高級ホテルなどで金持ちをいかに館に誘い込むのかが、その「館」全体の命運を決めると言ってもいい。
これは、東急百貨店本店の跡地にできる施設を見ても明らかだ。報道によれば、2027年度の完成を目指しているこの施設は高さ165メートル、地上36階、地下4階。上層階は賃貸レジデンス、中層階にはアジアで展開する高級ホテル、そして低階層に商業施設ができる。
要するに、渋谷のタワーマンションと高級ホテルの下に“ミニ百貨店”が併設されるようなイメージなのだ。しかも、それは富裕層に特化した施設になる見込みだ。なぜそう思うかというと、東急グループがこの再開発のパートナーに選んだ企業だ。それは、「L Catterton Real Estate(Lキャタルトンリアルエステート)」である。
「なんだよ、それ」という反応がほとんどだろう。同社はルイ・ヴィトンなどの高級ブランドを傘下に持つLVMHグループで、「GINZA SIX」の開発にも参画した。
東京以外の方はあまりピンとこないだろうが、GINZA SIXというのは、松坂屋銀座の跡地にできた富裕層向け商業施設で、コロナ前は中国人の金持ち御一行が、高級ブランドを爆買いしていたスポットとして知られていた。
国内外のハイブランド、ラグジュアリーブランドが軒を並べて、Tシャツ一枚が3万円なんてところもある。「え! マックのハンバーガーが170円? 高すぎるだろ、殺す気か!」なんて怒っている日本のつつましい庶民は、ハナから相手にしていないのだ。
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