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いくら「お願い」してもニッポンの賃金は上がらない──その3つの原因とは働き方の「今」を知る(2/5 ページ)

» 2023年02月08日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

「賃金水準の長期低迷」の結果

 わが国における長期の景気低迷を指して俗に「失われた30年」などといわれるが、労働政策研究・研修機構の統計結果からも分かる通り、新卒初任給の水準はこの30年でほとんど増加していない。その間、その間、「いざなみ景気」と名付けられた、「いざなぎ景気」を上回る長期の景気拡大期(02年2月〜08年2月の73カ月間)を含む複数の好景気が存在したにもかかわらず、だ。

 22年7月に「サイバーエージェント」が、23年春の新卒入社初任給を42万円に引き上げると宣言したこと(参考記事)に続き、先日も「ユニクロ」を展開するファーストリテイリンググループが今春新入社員の初任給を、現行の25万5000円から30万円(年収で約18%増)に引き上げると発表。世間に驚きを与えた。

 これまでの横並びの状況を打破する、先駆者としての企業努力は称賛されるべきである一方で、考えようによっては「一部企業の初任給が少々上がるだけで、全国ニュースで大きく報道され、広く話題にまでなってしまう」という、ある意味異常な状況であるともいえよう。われわれはそれほどまで、「賃金水準の長期低迷」という環境にどっぷりつかってしまっていたわけだ。

内閣府より

 国際比較として、わが国でバブル経済が崩壊した1991年を基準として各国の名目賃金を100に設定し、2020年まで比較した場合を見ても同様。米国と英国が250に迫り、カナダ、イタリア、ドイツ、フランスが170から210の間まで伸びているのに対し、日本は見事に横ばい。世界的なインフレと賃金上昇から取り残されているのである。

内閣府より

 昨今の物価上昇は「インフレ」と報道されることが多いが、インフレでも、物価上昇に伴って賃金も比例しながら上昇していくのであれば何ら問題はなく、むしろ健全な経済成長といえよう。しかし物価だけが値上がりし、景気後退の中で賃金上昇が伴わない状況は「スタグフレーション」と呼ばれ、生活者にとっては極めて厳しい経済状況となり得る。今まさにわが国で、このスタグフレーションが現実に起ころうとしているのだ。

 では、なぜわが国は30年にもわたって賃金が上がらないままなのだろうか。そして政府が企業に対して「賃上げの依頼」をするのではなく、主体的に状況を改善していける方法はあるのだろうか。これは根が深く、原因も多岐にわたる複雑な問題ではあるが、今回は「賃上げが難しい理由と解決策」を大きく3つに分けて論じていきたい。

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